【対談】名越康文×平岩国泰 ほめればほめるほどやる気を失う子どもたち〜「放課後」だから気づけた、子どもの自己肯定感を伸ばす秘訣

2024/02/19 15時30分公開 / 2024/02/26 15時45分更新

「新しいことにチャレンジしたがらない」「自分の好きなものがわからない」子どもたちが増えている。その背景には「自己肯定感の低さ」があったーー。

ある子どもの一言をきっかけに、現代の子どもたちが抱える問題に気づき、『子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す!「自己肯定感」育成入門』を上梓した、平岩国泰氏。平岩氏は、放課後の小学校施設を活用して地域社会とともに子どもを育てる「放課後NPOアフタースクール」を運営している。活動は今年で10周年を迎え、これまで5万人以上の子どもが参加しているとのこと。

その平岩氏のもとを、児童相談所で多くの子どもを見てきた精神科医・名越康文氏が訪れた。それぞれの現場で子どもと向き合ってきたお二人に「自己肯定感を育てること」の重要性、そして「そのために私たち大人ができること」について、語り合ってもらった。


名越康文(なこし やすふみ)

1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『Solo Time(ソロタイム) 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』『驚く力 矛盾に満ちた世界を生き抜くための心の技法』などがある。夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話」「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。


平岩 国泰(ひらいわ・くにやす)

特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール代表理事 1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。30歳のとき、長女の誕生をきっかけに“放課後NPOアフタースクール"の活動を開始。2011年会社を退職し、日本の子どもたちの「社会を巻き込んだ教育改革」に挑む。“アフタースクール"には活動開始以降、5万人以上の子どもが参加。グッドデザイン賞を過去に4度受賞、他各賞を受賞。2013年より文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年より渋谷区教育委員、学校法人新渡戸文化学園理事を務める。



子どもの「やりたくない」という一言の衝撃


名越 この本(『「自己肯定感」育成入門』)を今年の春(編注・この対談は2019年4月に行われました)に出されたということですが、なぜ「自己肯定感」というテーマを取り上げることになったんでしょう?

平岩 きっかけは15年前、アフタースクールの活動を始めた頃に、子どもに言われたある一言がありまして……。

そのとき僕は、新しいプログラムを提示して「こういうことやらない?」と子どもたちを誘ったんです。僕としては、当然子どもたちから「やりたい! やりたい!」という積極的な反応がかえってくると思い込んでいた。

ところが、子どもたちから返ってきたのは「やったことがないから、やりたくない」という答えで……。

名越 「やったことがないから、やりたくない」ですか……。それはショックを受けましたよね。

平岩 「子どもは何でもやりたがるものだ」という、自分のイメージもあったんでしょうね。「えっ」と驚きました。「やったことないからこそ、やるんじゃないの?」と(笑)。

その一言がすごく印象に残って、僕の中で長い間引っかかっていたんです。

保護者の方からも、「うちの子は新しいことにあまり挑戦したがらない」と悩んでいる声は耳にしていて、「ああ、これはこの子たちだけの問題じゃなくて、背景にもっと大きな問題がありそうだ」と思うようになりました。

それで、その後も何年もたくさんの子どもと接しているうちにわかってきたのは、子どもたちの多くが「失敗したくない」という不安を抱えている、ということでした。

もし失敗してしまったら、自分に「×印」がついてしまう。だったら最初からやらない方がいい――そういう発想ですね。

「失敗したくない」「やりたいことがない」「好きなものがわからない」……そういう気持ちを抱えている子どもたちと接するうちにたどりついた仮説が、「今の子どもたちは、十分に自己肯定感を持つことができていないのではないか」ということでした。

そしてその後も10数年、放課後NPOの活動のなかで子どもたちや、その親の方たちと交流するなかで、「これはどうやら確からしい」という確信になってきたんです。

名越 なるほど。でも、僕が児童相談所などで子どもを見ていた経験からいっても、平岩さんの仮説は、的を射ているんじゃないかと思いますね。

平岩 僕は心理学を専門的に勉強したわけではないので、この本に書いたことは、あくまで実践の中で感じたことを、自分なりにまとめたにすぎません。

ただ、「自己肯定感」という言葉を意識するようになってから、少し子どもたちが抱えている問題、ひいては、今の世の中で起きていることの背景に何があるのか、ということが色々と腑に落ちるようになった、ということはありました。



「自分に自信が持てない」大人たち


名越 僕は今、全国の4箇所で心理学の連続講座を持たせてもらっているんですけど、そこに1年以上継続的に通って来てくれている人たちに共通するのが、実は「自己肯定感が低い」ことなんです。

なぜそう感じるかというと、彼らは、社会的位置付けもしっかりしているし、周囲の信頼も十分に厚いんです。でもなぜか、自分に自信が持てないんですね。

たとえば、仕事などでどんな成果を出して評価されていたとしても、つねに「もっと頑張らなきゃいけない」といった焦りを抱えていたりする。それで結果的に、精神的にどんどん消耗していってしまっている……。

そういう人たちに話を聞いていると、平岩さんが今おっしゃったように、子ども時代に「自己肯定感」が損なわれているケースが結構あるんですよ。

平岩 子どもの頃に自己肯定感が満たされないことで、その後の人生に大きな影響を及ぼしてしまう。

それはきっと、「頑張らないと認めてもらえない」という感覚が、トラウマのように刷り込まれてしまうケースもあるでしょうし、そこまでいかないにしても、子どもの頃に「これをやらなければ怒られる」「こうしないとほめてもらえない」という感覚を持っていた人は少なくないと思います。

その中で自己肯定感が損なわれてしまうと、大人になってもなんとなく、自分に自信が持てないということが起きるのではないかと思います。

名越 そうなんです。僕は基底欠損という言葉を使うことがあるんですが、子どもの頃に根付いてしまった自信のなさって30代、40代はもちろん、下手をすると50代、60代になってからも、ずっと引きずってしまう可能性もある

それって一種のトラウマと呼んでもよい。

少なくとも、幼少期に自己肯定感、すなわち、自分で自分を肯定するような、身体的な感覚をどの程度確かなものとして得ることができたかということは、大人になってからも、その人の人生を大きく左右するということは間違いないと思います。



安易に「ほめる」ことが自己肯定感を損なう


名越 ただ、「自己肯定感」という言葉って、ずっと昔からあるんですけど、単純に「こういうものです」とか「こうやれば伸ばせます」とは言いづらいものなんですよね。

たとえば「ほめて育てよう」ということが、教育の現場などでここ10年くらいずっと言われて続けていますけど、「ほめること」って、自己肯定感を高めるよりもむしろ、損なってしまうことすらある。そういうことも、あまり一般的には知られていないと思うんです。

平岩 安易にほめすぎるのは良くない、ということは、私も感じていました。

もちろん「ほめる」ことが無駄だとか、ダメだとかは思いませんが、「ただ子どもをほめればいい」と言われても、親のほうはすぐに「ネタ切れ」になりますし、子どもは子どもで、親が本気でほめているかどうかをちゃんと見極めています。

この本では、<「ほめる」親より「気づく」親になろう>という言い方をしています。

「前はできなかったのにできるようになったよね」とか、「今日はいつもと違うね」とか。無理やりほめるんじゃなくて、まずは親が、「子どもの成長に気づく」ということが大事なんじゃないかと。

名越 「ほめるよりも気づく」というのは、いいフレーズですね。それは間違いないと思います。

平岩 別に毎日声をかける必要はなくて。ただ、「親が子どものことを見ている、見守っているということが子どもに伝わる」だけで十分なんじゃないかと。

名越 僕はもともと若い頃にアドラー心理学を学んだのですが、50代になってから改めて「アドラーってやっぱり天才だったな」と思ったことがあるんです。それは「ほめてはいけない」ということを、あの時代に言っていた、ということで。

平岩 ああ、そうなんですね。

名越 日本の教育や子育ての界隈では、「ほめて育てよう」ということが強く言われた時期があったし、おそらく今もそうかも知れません。

でも、それよりもずっと前から、アドラー心理学では、入門書の最初に「ほめてはいけない」と書いていた。それはなぜかというと、本当に人間が成長し、成熟していくためには、みずからを勇気づけることを目標にしないといけないからだというんです。

ほめられることで伸びてきた子どもは、他人からほめられることを目標として頑張るようになってしまう

ほめられたいという動機で行動してきた子どもは、状況が変わって、無理が生じてきても、他人にほめられたいから同じ行動を繰り返す。あるいは、ほめられなくなった途端に、やる気をなくしてしまう。

「ほめられること」を目標にしてしまった人の人生は、悪くすると「破滅」に向かう可能性があるというアドラーの指摘は、今の子どもたちを取り巻く状況を見ると、むしろ説得力を増しているように思います。

そして、100年以上も前に、こうした「ほめる」ことの問題に気づいていたアドラーは、やはりすごいなと思うんですね。

逆に言えば、今の教育現場は、まだアドラーに追いついていない、アドラーの洞察をまだ活かせていないということかもしれませんね。


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「やってみたい! 」「きっとできる! 」が口ぐせの子どもはどう育つ? 子どもが12歳になるまでに、親が読んでおきたい一冊!

難関大学に合格しても、一流企業に就職しても、幸せになれるとは限らないこの時代。20年後の「子どもの幸せ」に対して、親ができるのは究極的には、ひとつだけ、 「自己肯定感」を育てること。5万人の子どもと向き合ってきたNPO代表・平岩 国泰が提唱する、新しい子育ての基本!

「ほめる親」より「気づく親」になる/「気が利く親」ではなく、「ものわかりが悪い親」になる/親子で立てる目標は、非常識なくらい「低く」設定する/子どもを「ちょっと前の子ども」と比べる



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