マジックキングダムが夢から目覚めるとき

2023/06/05 08時45分公開

高城未来研究所【Future Report】Vol.624(6月2日)近況


今週は、フロリダ州オーランドにいます。


あまり知られていませんが、この街にあるディズニーワールドは、長年、治外法権同然でした。正式名称「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」は、6パークを有する世界最大のテーマパークとして知られており、総面積122平方キロメートルと北海道夕張市より大きな敷地を誇り、山手線内面積の1.5倍もの敷地があります。

従業員数だけで6万人を超え、まさにマジック・キングダムなのです。


歴史を振り返ると、1950年代の終り、カリフォルニアのディズニーランドの集客に成功したウォルト・ディズニーは、次の理想郷を作ろうと巨大な土地を探しました。

そこで、湿地帯ばかりで誰も手をつけないオーランドに目をつけ、州と条件付き契約を結び開発に着手します。

この条件とは、のちにディズニー法と呼ばれる「リディー・クリーク改善法」で成立した特別区の設置による、事実上の自治権の承認でした。

その自治権には、土地利用の規制と計画、建築基準法、地表水管理、排水、廃棄物処理、公共事業、道路、橋、消防、救急医療サービス、環境サービスなどのサービスなどが含まれ、さらには警察、事業免許等の交付、病院等の設置、アルコールの製造・販売の規制権限等も有し、上下水道、道路などの建設・管理・運営などを含む、司法と教育権を除く広範な特別権限があり、地区が郡や州に提出しなければならない唯一の分野は、固定資産税とエレベーター検査だけでした。

このような状況が21世紀に入っても続いていたのです。


しかし、「ミニ・トランプ」と呼ばれるロン・デサンティスがフロリダ州知事に当選してから事態は、急変します。

海軍出身のデサンティスは、2012年に下院議員に当選後、リバタリアン議員が集まる「ハウス・フリーダム・コーカス」を創設。

ティーパーティーを主導し、ここでドナルド・トランプと昵懇になりました。

その後、2018年にフロリダ州知事選に僅差で当選。

昨年11月のフロリダ州選挙で再戦を果たし、地盤を盤石なものとしました。

いまでは、来年の大統領選への出馬まで囁かれています。


現在の後ろ盾は、世界ヘッジファンドの創業来利益ランキング1位「シタデル」の創業者兼CEOで、ビルダーバーグ会議のメンバーであるケネス・グリフィン(年収5000億円!)です。

「シタデル」は、大手投資銀行を押しのけて米国全体の株式取引の25%、個人投資家だけに限れば40%を占めるため、米国最大のマーケットメーカーとして君臨します。


グリフィンのような超富裕層急進保守派に後押しされ、保守陣営から大きな支持を得ることに成功したデサンティスは、州立学校で性的少数者に関する教育の制限に乗り出します(州立大学でジェンダー研究や批判的人種理論を禁止)。

ところが、これにディズニーが猛反対して両者が対立。

今年の2月、州議会でディズニーに対する報復措置として、特別区域の監督機関の委員5人を知事が指名できる法案を可決し、事実上の自治権を剥奪したのです。


フロリダ州最大の雇用主であるディズニー・カンパニーを、あまりにも「覚醒している」という理由で処罰したデサンティス。


今後、保守とリベラル戦争に巻き込まれ、魔法が解けた「マジックキングダム」は、夢から「目覚めた」普通の国になるのかもしれません。


(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.624』の冒頭部分です)


高城未来研究所「Future Report

高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


高城剛 プロフィール

1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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