「ヘヤカツ」はiPhoneから生まれた!?ーー部屋の「UX」を向上させるという視点

2024/02/16 18時08分公開 / 2024/02/27 19時34分更新

※この記事は岩崎夏海さんのメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」2014年1月27日配信の記事「ヘヤカツはiPhoneから生まれた」(2,067字)を再構成したものです。



iPhoneを勝利に導いたユーザー・エクスペリエンスという発想


最近、「ヘヤカツの発想はどこから生まれたのですか?」と聞かれることが何度かあったので、今回は、そのことについて書いてみたい。

人間工学や工業製品の世界では、製品に対するユーザーの使い方を「ユーザー・インターフェース(UI)」といい、それを使うことによって得られる体験を「ユーザー・エクスペリエンス(UX)」という。

そして近年では、このうちの「UX」が、大きな注目を集めるようになった。それは、ジョブズの率いたアップルが、大きな成功を収めたからだ。


アップルの成功の象徴ともいえるiPhone。日本人はiPhoneが大好きで、本当に多くの人がiPhoneを使っている。

これに対して、さまざまな会社がスマートフォンを開発して勝負を挑んだが、どれも勝負にならなかった。どれもこてんぱんに叩きのめされた。

その原因はいろいろあるだろうが、最も大きいのはUXの差だった。iPhoneも他社製品も、機能的にはほとんど差がない。iPhoneでできることは、たいてい他社製品でもできる。しかし両者のUXには、大きな差がある。この差が、売上げの圧倒的な差を生み出したのだ。

そうなると、人々にとって――とりわけ日本人にとって、UXというのは非常に大きなウエイトを占めるということになる。数年前からiPhoneを使う中で、ぼくはずっとそのことを考え続けてきた。



部屋のUXを向上させること。それがヘヤカツ


日本人にとって、UXはとてもだいじ。

では、このことを、何か他の事象に応用することはできないか?

そうした問い立てから生まれたのが、昨年発売された「ヘヤカツ」本こと、「部屋を活かせば人生が変わる」なのだ。

「ヘヤカツ」のコンセプトは単純明快だ。

「部屋のUXを向上させよう!」

――これだけである。

あなたの部屋を、他社製品ではなく、iPhoneのような、触れていて楽しいものにしよう。

そして、そんな楽しい部屋に住むことができたなら、それは暮らしの質を大幅に向上させ、そこに住む人の人生をより豊かにするのではないだろうか。

部屋というのは、人が長時間触れるものである。それは、もしかしたらiPhoneより長い時間かもしれない。

そうなると、部屋が人に及ぼす影響というものも、iPhoneが人に及ぼす影響よりも大きいはずだ。部屋は、当たり前のようにiPhoneよりも重要な存在なのである。

ところが、そんな部屋のUXを向上させようという発想を、これまで誰も抱いたことがなかった。いや、掃除をして住みやすくするというくらいの発想なら持った人はいるかもしれないが、それを一歩押し進めて「住む」という体験をエンターテイメントにまで昇華させようといった発想は、あまり持たれることがなかったのである。

もちろん、建築家やインテリアデザイナーなどは、そうした考えを持っていただろうが、ほとんどの場合において、それは住む人の意識にまでは降りてこなかった。

そして部屋は、iPhoneと違って、そこに住む人によって作り替えられる部分が大きいので、いかに建築家がUXを意識した部屋を作ろうとも、それが活かされることはほとんどなかった。

そんな、人々にとってだいじな存在であるところの「部屋のUX」に関する意識に革命を起こそうというのが、ヘヤカツの目指すところである。



「部屋の裏側」にこだわろう


そこで行ったのは、まずは基本的なメソッドを確立するということだった。

これを読めば、誰でも簡単にUXの意識を持て、しかも実践的に部屋を住みやすく改善できる――それが、この本のミソである。

その具体的な内容については本に実際に当たっていただきたいのだが、ここでは特に、その根幹となる思想部分についてご紹介したい。

それは、「部屋の表側ではなく、裏側を重視する」ということである。

ジョブズは、新しい製品を作る際、まずこだわったのが、製品の裏側だった。そこのところを美しくするところから、ジョブズのUX作りは始まった。

例えば、コンピューターの基盤の配列など、一般のユーザーが絶対に見ないであろう部分のデザインにまで、徹底的にこだわった。なぜなら、そういう裏側の部分の良し悪しというものが、必ず表側に反映すると考えていたからだ。

こうした考えを、ぼくはジョブズの本を読むことで学んできた。

これは、人間にたとえるなら皮膚などの表面を美しくするのではなく、まず「内臓」から美しくするという発想である。内臓が美しくないと、それに敏感に左右される肌なども、絶対に美しくならないというのがジョブズの考え方だった。

ヘヤカツの発想も、これと同じである。部屋の表面ではなく、まずは内側のUXを向上させるということからスタートしている。

そして内側のUXを向上させるということは、すなわち「掃除をしやすくする」ということである。もっといえば、「掃除を楽しくさせる」のが、ヘヤカツの一番のポイントなのだ。

掃除が楽しいかどうかが、その部屋の清潔さに与える影響は大きい。掃除がしやすいと部屋もきれいになり、掃除がしにくいと部屋は汚くなる。

それは、内臓がきれいだと肌もきれいになるのと似ているし、基盤の配列が美しいとUXが向上するiPhoneとも似ているのだ。

ヘヤカツは、そうしたiPhoneの作り方を応用して生まれたのだ。その意味で、ヘヤカツはiPhoneから生まれたといっても過言ではないのである。



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