感性のグローバリゼーションが日本で起きるのはいつか

2024/07/29 08時35分公開

高城未来研究所【Future Report】Vol.684(2024年7月29日)近況


今週はロンドンにいます。


今年もロンドンで「CanJam」が開催され、オーディオ愛好家や業界の専門家たちが集結しました。

毎年パークプラザ・ウェストミンスター・ブリッジで行われるこのイベントは、主にヘッドフォンの最新技術を一堂に集めた展示会で、未完成のプロトタイプが数多く出品されています。


「CanJam」は世界中で開催されているヘッドホンマニア垂線のイベントですが、日本はアニメなどの特殊事情もあって独自のヘッドフォン祭りが開催されており、少し世界のトレンドとは異なります。

年齢層に限らず世界中の高音質を求めるオーディオフィル・ヘッドフォンユーザーたちは、クラシックやジャズを聴く人たちが大半ですが、日本だとアニメソングを聴く人たちが高額なヘッドフォンのメインマーケットなため、明らかに相違があるのです。


そこで、定期的に海外のオーディオフェアに伺って、時代の潮流を掴むようにしています。

今回の「CanJam」には、日本でもお馴染みのSennheiser、STAX、Meze Audioなど、世界中のトップブランドが出展していましたが、同じメーカーでも明らかに出品ラインナップが異なります。

また、特殊事情の日本をパスしている見たことがないヘッドフォン、イヤホン、アンプ、デジタルオーディオプレーヤーも多数陳列されており、今年はイタリアのViva audio Egoistaのプロトタイプに注目が集まっていました。


合わせて最新の音響知識をベースにしたセミナーも開催。

その中でも話題になりましたが、聴く音楽ジャンルだけでなく、人種や言語によってもヘッドホンの好みが大きく分かれていると様々な研究データをもとに発表されていました。

例えば、日本語と英語では可聴範囲が異なるため、同じ音楽を聴いていても全員が同じように脳が聴こえているとは限りません。

可聴範囲は、人間が聞くことのできる音の周波数範囲を指し、一般的には20 Hzから20,000 Hzとされますが、個々の聴覚感度は年齢、遺伝、環境要因などによっても異なります。


また、言語の音韻構造の違いが、特定の周波数帯域に対する聴覚感度や音の認識に影響を与えることが分かっています。

英語と日本語はそれぞれ異なる音韻構造を持っているため、このあたりでも大きな乖離が見られます。

英語は複雑な母音システムと多くの子音クラスタを特徴とし、高周波成分(例:摩擦音)の使用が顕著ですが、一方、日本語は五つの基本母音と比較的シンプルな子音音素を持ち、中低周波成分が中心です。


今回発表された研究結果によれば、特定の周波数帯域に対する感度には明らかな違いが認められ、英語話者は高周波音に対して敏感であり、特に摩擦音(例:s音、f音)に対する感度が高く、一方、日本語話者は中低周波音(例:母音音素)に対する感度が高いため、これが音楽の聞こえ方に多大な影響を与えていることが示唆されました。


言語の音韻構造が聴覚感度に与える影響は、脳の聴覚処理における適応的変化に起因する可能性があり、特定の言語に日常的に接することで、その言語に特有の音韻パターンを識別する能力が発達します。

このため、英語話者は高周波成分に、日本語話者は中低周波成分に対する感度が高まると考えられ、ここに各国の音楽性の違いやヘッドホンに対する嗜好の違いが明確に現れます。

同じく音楽の聞こえ方に関する主観的評価では、英語話者は高音域の明瞭さを、日本語話者は中音域の豊かさを重視する傾向が見られ、この違いは、各国のミキシングやマスタリングのプロセスにも影響を与えているのです。


簡単に言い換えれば、中域あたりのまとまりを気にする日本人と、高域と低域が明確に感じられるドンシャリ・サウンドを好む英語圏の人たち。

この差を埋めて成功したのが、LAのコリアンタウンで醸造されたK-POPです。


半導体をはじめ、世界の工場を取り合うようなハードパワーによる競争的なグローバリゼーションではなく、ソフトパワーとも言うべきべ感性のグローバリゼーションが日本で起きるのは、まだまだ先になるだろうな、と最新のヘッドホンを聴きながら考える今週です。

何しろロサンゼルスのリトルトーキョーの人口3500人に対し、コリアンタウンは人口は10万人以上もいるのですから。


(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.684』の冒頭部分です)


高城未来研究所「Future Report

高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


高城剛 プロフィール

1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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