地方の担い手が消えていく——公務員・教員不足と女性流出が示す「選ばれない地域」の共通点

2026/04/29 17時30分公開

人間迷路 Vol.510より】



 ご覧になられた方も少なくないとは思いますが、いま、地方の人口減少がいよいよ抜き差しならない状態になってきている、という報道が増えています。ほんと、経済的にも社会的にも成り立たない地方がどうなるのか、どうするべきかってのはそろそろ真面目に考えましょうよ、という。

 その点では、10年以上前から「そろそろ日本は人口減少に備えた撤退戦の準備を」とは私も言い続けてきたのですが、現状は、それを超えて面倒なことになっとるなあ、もう無理なんやろな、という感じです。

 地方から人が消えています。これはもう誰もが知っている話です。しかし「消え方」に関する議論の多くが、表面をなぞるだけで終わっててしょうもねえなと感じることもありますが、要するに「主張しても解決させられる方策がなく、言っても仕方なくなっている」面はあるんですよ。その点を、まず確認しておきたいと思います。

 総務省の住民基本台帳に基づく人口移動報告(2024年版)によれば、東京都への転入超過は7万9,285人。東京圏全体では13万5,843人が転入超過となり、コロナ前の水準に戻りつつあります。29年連続で転入超過が続いているわけですから、「コロナ禍での地方移住ブーム」などというものが、いかに一時的な揺り戻しに過ぎなかったかがよくわかります。いや、でもコロナでリモートで環境の良い地方で暮らす、ってのも文化的には悪くなかったとは思いますけどね。

 ただ、問題はそこだけではありません。同じ報告書を男女別に読んでいくと、東京都への転入超過4万2,172人は女性。大阪圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県)では男性が2,217人の転出超過であるにもかかわらず、女性は4,896人の転入超過と逆方向の動きをしている。つまり、都市への流入は男性よりも女性においてより顕著な傾向があるのです。東京への人口集中の経緯や状況については別途まとめたいと思っておりますが、今回は地方からの女性流出について絞って書いていくことにしますと、そもそもこの構造は2009年頃から15年以上継続しており、ピーク年齢は20代前半です。若い女性が地方を離れ、そして戻ってこないことになります。進学の壁、結婚の壁、就職の壁、出産の壁と女性が地元に見切りをつけて都市部に移る節目は分かりやすいですが、全体の構造としても「地元で子どもを産める産科がない」とか「子どもが熱を出したときにかかれる24時間の小児科がない」とか「子どもが育ってもまともに教育できる学校がない」とかそういう副次的だけどビッグな要因があることに間違いはないのです。

 この状況を「若者の都会志向」や「地方への無関心」などと片づける論調がいまだに後を絶ちません。馬鹿なんじゃねえの。しかしそれは、現象を観察しているだけで、原因を掘り下げていない言い方です。

 なぜ女性が地方を去るのかについて、内閣府が実施した意識調査(「令和6年度地域における女性活躍・男女共同参画に関する調査報告書」)が率直な回答を示しています。出身地域を離れた理由の上位は「希望する進学先が少なかった」「やりたい仕事や就職先が少なかった」「地元から離れたかった」という三つ。そして地元に戻らない理由には、固定的な性別役割分担意識の存在が繰り返し挙げられています。まあ、要するに地元に戻っても家事や町内会のために働かされるのがいやだ、ってのもあるんでしょう。

 雇用の実態はどうか。厚生労働省「令和6年版 働く女性の実情」によれば、役員を除く雇用者に占める非正規の割合は男性22.2%に対して女性は53.4%にのぼります。大学・大学院を卒業した女性でも非正社員比率は34.9%で、同学歴の男性(14.6%)の倍以上です。地方の事務職正社員でも月の手取りが10万円台というケースはさほど珍しくなく、同じ仕事をしていても男女で賃金水準が異なるという状況は今も多くの現場に残っています。

 キャリアの見通しも問題です。女性が庶務や受付窓口に配置される傾向は依然として根強く、管理職へのルートが事実上閉ざされている職場は地方に限らず存在します。それでも都市部には「少なくとも選択肢がある」という感覚を持てる環境があるのです。東京に出れば、少なくとも婚姻歴や出産予定を業務とは無関係に問いただされるような圧力からは、かなりの程度距離を置けます。一つひとつは小さく見えるかもしれませんが、毎日積み重なる「空気」は人の行動を確実に変えます。まともな女性ほど、やってられなくなって都会に出るってのがデフォルトになっているのも分かろうというものです。

 ちょっと移動距離の長い暇もあったのでしげしげと読んでいたのですが、先般の令和7年版の男女共同参画白書は、今年の特集テーマをまるごと「男女共同参画の視点から見た魅力ある地域づくり」に充てました。張り切ってんなあ。いや、良かったと思いますよ。中身を見る限りでは、政府がここまで明確に「若い女性に選ばれない地方」という問題を正面から取り上げたのは、これが初めてと言ってもよいでしょう。そして内閣府はこう述べています。「若い世代の変化した意識」と「職場を含む地域社会」との間のギャップが、若者や女性の転出行動につながっているのだ、と。そのギャップを生んでいるのは、アンコンシャス・バイアス、つまり無意識の思い込みに根ざした構造的な問題だということです。

 移住支援金を積んでも婚活イベントを繰り返しても、地域が自分を正当に評価してくれないと感じている女性は来ません。来たとしても、すぐに去っていきます。これは経験則ではなく、データが示していることです。その意味でも、小手先の「地元に残ってね」的な政策が効果を挙げなさそうだ、というのはたぶん地方で行政に関わっておられる皆さんはいやというほど実感されているのではないかとも思います。

 んでまあ、せっかくなのでここで少し視点を変えてたいんですが、地方から人が流出するという問題と、地方の公共サービスを維持する担い手が不足するという問題は、実は同じ一枚の紙の表と裏です。

 総務省の調査によれば、地方公務員試験の受験者数は平成25年度の583,541人から令和4年度の438,651人へと、この10年で約15万人も減少しています。競争倍率は過去30年で最低の5.2倍(10年前は7.9倍)。東京都でさえ一般行政職の倍率が5.6倍から2.4倍に半減しており、26の都道府県庁で4.0倍を下回っています。自治体職員の総数はピーク時の328万人から281万人まで減っており、47万人規模の削減が進んだ計算になります。

 そして、教育の現場はさらに深刻です。文部科学省が2025年12月に公表した「令和7年度公立学校教員採用選考試験の実施状況」によれば、採用倍率は全体で2.9倍と過去最低を更新。小学校に限れば2.0倍。倍率の低下はすでに8年連続です。秋田県の小学校では1.1倍、富山県・宮崎県では1.2倍まで下がっており、受ければほぼ通るという状況が生まれています。受験者の総数も10万9,123人と過去最少で、採用側が求める人材を選ぶという前提が機能しにくくなっています。これ、単に就業希望者の倍率の問題だと単純化できず、裏を返すと誰でもなれる職業になった結果、教師にクズが採用されることを意味します。この教育の劣化の可能性は、もちろん見た目優秀でなくても真面目にやっているうちに教師として素晴らしくなる可能性は残しつつも、時系列かつ全体で見れば、いまは踏みとどまっているけれどもいずれ教育の質の劣化に跳ね返ってくるんじゃねえのと怖れておるわけです。

 こうした状況を「若者の公務員離れ」や「価値観の多様化」で説明しようとする論調には、本質的な誤りが含まれています。若者が公務員を敬遠しているのではなく、そもそも公務員を受験できる年齢の若者の母数が縮んでいるのです。

 2024年に人口が増加したのは東京都と埼玉県の2都県のみ。45道府県では人口が減少しました。この構造的な事実を見れば、採用倍率の低下は「競争が緩くなった」ことを意味するのではなく、「選べる人材の絶対数そのものが減っている」ことを意味していることがわかります。

 かつて日本には、地方の若者が余るほどいた時代がありました。1950年代後半から1975年ごろまで続いた集団就職の時代、東北や九州の中学・高校卒業生が「金の卵」として都市部の工場や家庭に送り出されていきました。地方には子どもが多くいたから、その一部を都市に差し出しても、地元に担い手は十分残せたわけです。でもいまは違います。送り出す側の若者そのものが存在しないので、当然、地方から都市部に人口が出ていけば、そのままダイレクトに地方での出生絶対数に響くことになるんです。

 にもかかわらず、処方箋として出てくるのは「給与を上げる」「試験の難易度を下げる」「早期化する」という入口対策ばかりです。あ、いや給与を上げるとか最低限やるべきことは正しいと思いますよ。ただ、これが問題の対症療法に過ぎないことは、もう少し考えれば気づけるはずです。給与を上げることは必要条件ですが、十分条件ではありません。

 山梨総合研究所が2023年末から2024年初めにかけて実施した調査(対象:過去に自治体を退職した20歳以上35歳未満の1,223人)は、退職理由が複合的であることを示しています。給与水準への不満が最多(68%)ではあるものの、キャリア形成への不安(61%)、業務内容とのミスマッチ(54%)、働き方の硬直性(49%)、スキル習得機会の不足(43%)と続いており、「もっと稼ぎたい」だけで辞めているわけではありません。入ってから「こんなはずではなかった」と感じさせる職場環境そのものの問題です。

 総務省の調査では、30歳未満の自己都合退職者数が平成25年度の1,564名から令和4年度には4,244名と、10年で2.7倍に増えています。メンタル不調による長期病気休暇も同期間で約2倍。入ってきた若手が壊れながら抜けていく構造です。見ていて辛い言及であるのは間違いありません。どうして世の中ここまで壊れていくんだ。で、令和6年の退職状況調査によれば、普通退職者の年齢別割合では60歳以上の高年齢層に次いで、30歳以下の若手退職の割合が高く、30歳になるまでに約3割が離職しているという現実があります。

 「地方都市に人口を集約すればよい」という議論も聞こえてきますが、これも粗い見方です。まあ、昔は人口30万人を目指す「人口のダム論」とかはありましたが。そもそも集約先として想定される県庁所在地クラスの都市でも、採用倍率は低下し、教員は不足し、医療・介護・建設といったあらゆるサービス業でも人手不足が進行しています。集まった先が成り立たなくなりつつあるのですから、集約論は出口のない議論です。解がないのですが、ないぶんだけ感情論になりがちで、これといったエビデンスもないのに無駄な施策をし、予算を使ってしまって死期を速めてしまう地方が多いんじゃないかと心配になります。

 都市部への人口集中の問題で、よく東京・首都圏への人口集中が少子化を促進する、という話が出てきますが、実際のところ、エビデンスとして東京の単純特殊出生率は確かに低く出るだけで、必ずしも東京に若い人が来るからといって人口減少のブラックホールになってるわけではありません。そもそもいまの人口統計は、東京で出会って世帯を構えてから埼玉神奈川千葉山梨へ転出していく動きを上手くフォローアップできていない、というのが現実ではないかと思います。

 その点で「地方から都市へ」という人口移動は、個人の合理的な選択として見れば理解できます。内閣官房と内閣府がまとめた「地方創生10年の取組と今後の推進方向」(2024年6月)もこの点について率直に認めており、10年間の政策が東京一極集中の是正に「あまり進まなかった」と自己評価しています。これはまあ当然で、国民有権者、特に地方在住であった女性の主体的選択の結果、人口が都市部に移っているのに、その選択の理由にメスを入れないまま予算をつけて「地方に留まって」「帰ってきて」といってもなかなかむつかしいでしょう。そして、施策が地方間の人口の奪い合いにとどまり、東京圏と地方という無駄に二極化された構図そのものを変えるには至らなかった、ということです。

 先般の地方創生2.0基本構想(令和7年6月閣議決定)は、「若者や女性にも選ばれる地域づくり」を基本方針に据え、アンコンシャス・バイアスの解消と地域における賃金格差の是正を明記しました。問題の所在を政府自身が正確に認識しているという意味では、一歩前進です。しかしこれが施策として地域に実装されるかどうかは別の話で、むしろここからが問われます。

 結局のところ、問題の根は「仕事そのものの設計」と「地域社会の空気」という、どちらも短期間に変えにくいものに行き着きます。補助金を配れば解決するものでも、ふるさと納税の競争で税収を増やせば解決するものでもありません。先般のnoteで木下斉さんが指摘するように、問いの立て方を変えること、つまり「どうすれば人を呼び戻せるか」ではなく「なぜここにいたくないのか」を正面から受け止めることが、変化の起点になるはずです。

地方の担い手が消えていく。公務員試験の倍率低下と若手退職が映す構造的衰退の正体
 私もお世話になっているのであまり強くは申しませんが、商工会議所や地方議会、自治会の構成メンバーを見てみれば、その地域が誰のための場所として設計されているかは一目でわかります。60代以上の男性が意思決定のほぼすべてを担っている地域から、20代の女性が離れていくのは、合理的な判断です。問題は出ていく側にあるのではなく、その合理的判断を引き起こしている側にあるわけですよ。

 その点で、偉い人たちが主張している日本人の仕事の再設計とはどういうことか。デジタル化によって定型的な事務処理を圧縮し、政策立案や地域運営といった付加価値の高い業務に人材と時間を集中させること。若い職員に意思決定への参加機会を与え、年功序列だけではないキャリアパスを多層化すること。そして公務と民間を行き来できるような仕組みをつくり、地域全体として「ここで働き、ここで生きる」ことへの実感を積み上げていくこと。そのどれも、一朝一夕にできることではありませんが、それをやらずに給与だけ上げても、人は再び抜けていきます。

 地方に残る選択をした人が、その選択を後悔しないで済む環境を作れるかどうか。それが問われています。都市部への人口集中に私たちが「危機感」を持つとすれば、東京が賑わうことへの嫉妬からではなく、この国全体が緩やかに、しかし着実に、自分自身を支える基盤を失っていくことへの認識からであるべきです。

 担い手の消失と女性の流出は、産業構造の空洞化と同じ問題の別の顔です。それぞれ別々に語られることが多いのですが、根っこは一つです。「ここには自分が活かされる場所がない」という感覚が積み重なった結果として、人は合理的に移動する。その感覚を生んでいる構造を変えない限り、どんな施策も表面を撫でるだけで終わります。

 あなたの地域は、次の世代に選ばれる場所になっていますか。その問いを、いま一度、真剣に考える必要があります。

 ま、考えたところでできることは限られているから、解決せんのですが。

人間迷路 Vol.510 答えが見つからない地方人口減少問題を論じつつ、デンソーのローム買収提案で感じる国内産業再編の矛盾と可能性や買い切りソフトビジネスの破綻を考える回」(2026年4月29日発行)序文より

山本一郎メルマガ『人間迷路
ネット業界とゲーム業界の投資界隈では知らぬ者のない独特のポジションを築き、国内海外のコンテンツ制作環境に精通。日本のネット社会最強のウォッチャーの一人であり、また誰よりもプロ野球とシミュレーションゲームを愛する、「元・切込隊長」こと山本一郎による産業裏事情、時事解説メルマガの決定版!

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山本一郎(やまもといちろう)
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。
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