「天然の日本人」が絶滅危惧種として語られる日

2026/06/08 08時30分公開
高城未来研究所【Future Report】Vol.781(2026年6月5日)近況
今週は、浜松にいます。

旬を迎えた天然うなぎを食べに、わざわざこの時期に帰国したと言っても過言ではありません。
養殖物が一年中出回るこの時代に、天然の、しかも春うなぎを口にできる機会は、日に日に貴重になっているのは間違いなく、川と海をめぐる天然ものの滋味を味わうのは、日本ならでは。
脂の質も、身の締まりも、養殖とはまるで違うこの一尾にありつくため、遠路から足を運ぶ価値は、十分にありました。

昨年出版しました自著にも記載しましたように、天然うなぎそのものが、いまや絶滅の危機に瀕した存在です。ニホンウナギは国際的な保護の対象となり、その生態の多くはいまだ謎に包まれたまま、数を減らし続けています。
かつては当たり前に食卓にのぼった天然の味が、気づけば「希少なごちそう」へと変わってしまいましたが、目の前のお重を前に、ふと、この国そのものが似たような道をたどっているのではないか、という思いにとらわれました。

先週発表された2025年国勢調査速報値によれば、昨年10月1日時点で、外国人を含む日本の総人口は1億2304万9524人。
前回2020年の調査から、驚くべきことにたった5年で309万6575人も減少しています。これはまるごと大阪市が消えた以上の数で、しかも減り方が急加速。
今回の減少幅は過去最大、減少率も前回の0.7%から2.5%へと大幅に伸びました。

今回の速報値のなかで慄然としたのは、減少の波がついに「都市部の安全地帯」をも飲み込んだという事実です。
これまで人口減少といえば、地方の過疎の問題として語られてきました。しかしその認識は根底から覆され、東京、沖縄を除く45道府県で人口が減少。
埼玉、千葉は調査開始以来初めて、神奈川、愛知は戦後初めてマイナスに転じています。
埼玉・千葉・神奈川といえば、戦後一貫して人口を増やし続けてきた東京圏の巨大なベッドタウンでしたが、日本の人口増を牽引してきたエンジンそのものが、いま停止したことを数字が明確に物語っています。

ここ静岡も、その最前線にあります。静岡県の人口は前年から3万765人減少し、この減少数は全都道府県のなかで3番目に多い数字でした。
要因も深刻です。死亡者数が出生者数を上回る自然減が原因で、生まれる人より死ぬ人が圧倒的に多く、若者は東京へ吸い上げられ、その穴を外国人労働者が埋めています。
これが、ものづくり王国・静岡の正確な現在地です。足元の浜松を含む静岡市の独自推計は、もっと容赦がありません。対策をとらなければ、2050年には2024年と比べて27.2%の減少が見込まれます。
四半世紀で、政令指定都市の人口が四分の一以上消える現状は、もはや「減少」ではなく、都市の溶解と呼ぶべき事態だと言えます。

全国に目を転じれば、この収縮がいかに普遍的かが分かります。市町村別では、全体の90.6%にあたる1558自治体で人口が減少し、減少幅が1割以上だった市町村は27.7%に上り、前回の14.3%からほぼ倍増しました。
十のうち九の市町村で人が減り、四分の一以上の自治体が、わずか5年で人口の一割を失い、いまや日本地図そのものが書き換わりつつあるのです。

しかも、これらの未来推計はすべて「今後、日本が平時で外国人が安定して入り続け、人口は緩やかな曲線で減る」という前提に立っています。
もし南海トラフのような巨大震災が起き、あるいは極端な円安や東アジアの有事、世界的な労働力争奪戦での敗北によって、外国人の流入が止まったらどうなるか。
総人口の減少を覆い隠してきたベールが剥がれ、減少ペースは一気に年100万人減少まで跳ね上がります。

また、人口減少には、複利のように加速する構造が組み込まれています。
15歳未満の人口は年に2.64%という、総人口減少率の6倍もの速さで減っているため、子どもが減れば二十年後に親になる世代が減り、その世代が産む子はさらに少なくなるのは確実な未来です。
減少が次の減少を生み、加速曲線に一気に進みます。外国人流入の途絶と、この出生スパイラルの加速が同時に起きれば、早ければ10年も経たない2035年前後に総人口の1億人割れは前倒しになると予測されるのです。

政府はこれまで、人口が増え続けることを暗黙の前提に、年金も、医療も、地方財政も、不動産も、あらゆる制度を設計してきました。
埼玉や千葉や神奈川までもが減り始めたという今回の数字は、国家という建造物の最後の支柱に、はっきりとヒビが入ったことを告げる音なのかもしれません。

かつて川辺にいくらでもいた天然のうなぎが、乱獲と環境の変化のなかで姿を消し、いまや人の手による養殖がなければ食卓に届かなくなってしまいました。
その構図は、外国人の流入という「養殖」なしには人口を保てなくなったこの国の姿と、不気味なほど重なって見えます。
混じりけのない「天然の日本人」もまた、絶滅危惧種として語られる日が来てしまうのではないか、と考える今週です。

梅雨と同時に早くも台風襲来です。
気候もすっかり変わりました。

(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.781』の冒頭部分です)


高城未来研究所「Future Report
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。
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