「もしトラ」の現実味と本当にこれどうすんの問題

2024/02/29 21時35分公開

人間迷路 Vol.434より】


 アメリカの共和党指名争い、全米各州での予備選挙や党員集会が集中する「スーパーチューズデー」は3月5日になります。ここでトランプさんは競合の元国連大使ヘイリーさんを降ろせるかどうかが注目されるわけですが、裏を返すとヘイリーさんはここまで粘ってきたもののほとんど勝ち目のない3月5日を迎えてどう次に繋がる敗北宣言をするかという雰囲気の論調にならざるを得ません。

 トランプさんとしても、うっかり共和党の指名争いで時間とカネを使うよりは、いま訴追されている裁判や本格的な大統領選挙に向けて集中したいという考えがありありと見えている一方、第二次トランプホワイトハウスに向けて先物買い的なコンタクトが相次いでいるのもまた事実です。

 トランプ外交においてはウクライナ侵略問題を直接左右するNATO条約5条の問題から台湾関係法、アメリカと日本、韓国との防衛関係でもかなり込み入った問題を引き起こす可能性が高い一方、アメリカ政治の源流に関わる事件になっているイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区侵攻についてもいろいろとアレな決断を下す恐れがあるのではないかと警戒をされています。

 尾を引いているのは最後っ屁的に出した中東和平案で思いっきりイスラエル寄りの裁定をしたうえで、その後の民主党バイデン政権の中東政策を批判し、その割にトランプさん自身はその後ガザ問題への決定的な言及は避けています。

トランプ氏、中東和平案を発表 パレスチナは反発

 他方で、トランプ政権が成立した場合はウクライナ支援については既定路線として減らしていく(場合によっては介入自体を停止して支援を取りやめる)言及をしており、結果的に、力による現状変更を進めるロシアに利する判断をアメリカ大統領としてしてしまう恐れもあるわけですよ。

 むしろ、アメリカのいまの世論調査を見ていてやべーなと思うのは、もちろん国民の断絶で西海岸など都市部とテキサスなどラストベルトも含めたレッドステートとの見解の違いがどんどん広がっていることもさることながら、トランプさんが適当に過激なことを言うたびに、アメリカ国民が冷めたりたしなめたりするどころか、むしろ熱狂してトランプ支持率が上がるという、おいそれはって感じの状況になっているのも気になるのです。

 さらには、西海岸で民主党の牙城であった都市部においても特に、地域政策の失敗から貧困や不法移民に対する風当たりが強まり、ついでに一定規模以下の窃盗などの犯罪は収監しない方針から都市活動がマヒし始めているうえ、インフレと好景気で不動産価格も家賃もアホほど上昇して年収10万ドル程度では都市部で暮らせないほど訳の分からないことになっているのもまた特筆されます。

 要は、アメリカはなかなか強い景気に支えられて盤石な状況であるにもかかわらず、現実のアメリカ国民の生活はあんまりうまくいっておらず、オピオイド汚染も含めて考えれば内政面で相当にヤバイだろうという状況のまま分断が進んでいっていることに懸念を感じるわけであります。それでも経済成長して世界中の富がまだまだ集まっているのだからいいじゃないかというのもありますが、そうであるからこそ、いまのアメリカ政治の過激化も含めた「もしトラ」に深い憂慮と警戒感を同盟国の国民として健全に持っておくことは必要じゃないかと思うのです。

 それでも一部予想では共和党トランプさんは大統領選本選でバイデンさんか、バイデンさんの後継候補には負けるのではないかという観測もあります。正直、その分析の妥当性はよく分かりませんが(実際、トランプさんが当選した大統領選でもトランプさんの当選率は8%程度と予測されてきた)、台風が来るぞ的に備えておいたほうがいいんじゃないかなあというのは正論だと捉えております。

 そして、そのころには我が国の総理も岸田文雄さんではない可能性があるのです。不安要素しかありませんが、次期総理が外相に岸田文雄さんを入閣させたりしませんかね…。

人間迷路 Vol.434 メルマガタイトル」(2024年7月29日発行)序文より


山本一郎メルマガ『人間迷路

ネット業界とゲーム業界の投資界隈では知らぬ者のない独特のポジションを築き、国内海外のコンテンツ制作環境に精通。日本のネット社会最強のウォッチャーの一人であり、また誰よりもプロ野球とシミュレーションゲームを愛する、「元・切込隊長」こと山本一郎による産業裏事情、時事解説メルマガの決定版!


山本一郎主催の経営情報グループ「漆黒と灯火

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山本一郎(やまもといちろう)

1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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