中国人のビザ免除方面も含めた日中間交渉のジレンマについて
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【人間迷路 Vol.462より】
お陰様で当メルマガ『人間迷路』の読者数が増えていて、またいままでとは違った読者さんからのご反響やタレコミなども頂戴する中で、書きづらくなってきたネタが日中関係でございます。別に口止めをされているとか、利害関係で中国からパンダハガー的な工作を受けているとかいう話ではないのですが… 案件を追いかけていったら発端が中華人民解放軍系企業だったとか、海外から提供された情報の根幹のところで中国の問題がクローズアップされたとか、抜き差しならない系の話が増えているなあという印象です。
でもこれはたぶん、昔から中国は日本に限らずいろんな国にそういう工作を繰り広げている中で、私がポジション的にそういう話に接しやすいところにやってきたというだけなんだろうなと考えています。
バルト海ケーブル断線、関与疑い船の捜査要請に中国応じず スウェーデン外相
例えば、先般のバルト海の海底ケーブルを中国船が破断した件に関して目下大騒ぎになってきていますが、その動機はともかく、現在日中間でもこのような話が出てきています。常識的に考えれば、中国の海洋政策において、第二列島線を超えた膨張を企図する場合や、偶発的でも何らか台湾海峡や南シナ海、北朝鮮情勢で何事か起きた場合には、中国はフリーハンドで通信や電力を遮断するような工作をやりますよという示威行為に直結するようにも思います。
中国 日本のEEZ内にブイ設置 日本側求める即時撤去に応じず
ところが、中国系の消息筋はだいたい3種類あって、中南海外交部の外交ルートと、なんとなく軍務系、そして中華戦略・情報部門系とに分かれているわけですけど、一連の流れにおいて、何が起きても平謝りをしてくる外交ルートは基本的に信用ならず、国家主席の習近平さんもあまり外交ルートに重きを置いているようにも思えません。
勢い、軍事や情報の現場で彼らが何を言っていて、何をしているのかから推論を立てていくしかないのですが、目下、対EUでも対英語圏、対日本でも、猛烈な報道工作をやっています。半笑いで見ている私に対してすら、関係先や旧友の類から面談依頼や情報提供のお話があるぐらいですから、相当手広くやっているんじゃないかなあという印象はどうしても持ちます。
何より、ブイはもちろん中国海警が設置したものだし、バルト海のケーブル切断を工作した中国船の乗組員もガチ中国人であることを考えれば、海洋での情報や物流のアクセスを遮断することに中国は非常に大きな関心を持っている前提なのは分かります。ただ、常識的に考えて、こんなあからさまにやるもんだろうかという疑念は常に巡ります。もはや「どうせアメリカにバレるんだから、コストかけずに最大の成果が出るようオープンにやり切ったれ」と開き直っているかのようなやり口です。
また、一連の工作においては、スカンジナビアの海底ケーブルが遮断されても中国には特にメリットがないよなというのもあり、最大の受益者というとやはりロシアになってきます。情報部門が本件でザワついているのもこの話であって、わざわざ露顕リスクを負い、自前の船舶設備や人員を剥き出しで使ってまでバレる工作をど真ん中でやってきたのかってのは解釈において意見が分かれるのです。
これはもうアナリストたちによる「予測」はあまり役に立たず、実際にどのような指令が行われ、いかなる指揮系統によるものであったのかという実態が分からなければ中華の意図はうかがい知れません。もちろん、消息筋はしきりに「中国の戦略当局による(いつものような)暴走」という観測を流しています。それって、特定の当局幹部が、ロシアによるウクライナ侵攻の局面で後方攪乱を目的にロシア側から便益を得て中国リソースを使い雑な作戦をやりました、というナラティブにしたいということなのでしょうか。
もちろん、そんな簡単な話であれば逆に粛々と中国方面をデカップリングしたり調査分量を増やしたりと対応して不測の事態を軽減する施策を取るのでしょうが、日台間・日韓間も含めた友邦国との海底ケーブルの安全について、突然小林鷹之さんが外で喋っています。
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むしろ、小林鷹之さんが喋った内容というよりは、どうも基礎取材をしっかりやっている黒田健朗さんという記者が最後に強烈な質問をぶっ込んできていることに好感を持ちます。
海底ケーブルを通じた盗聴リスクにはどう対応しますか。
答え合わせなんじゃないですかね。知らんけど。
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「人間迷路 Vol.462 日中間交渉のあり方に頭を悩ませつつ、認知問題と金融資産残高推計にまつわる難題や深刻化が進むサイバーセキュリティ問題などに触れる回」(2024年12月28日発行)序文より
山本一郎メルマガ『人間迷路』
ネット業界とゲーム業界の投資界隈では知らぬ者のない独特のポジションを築き、国内海外のコンテンツ制作環境に精通。日本のネット社会最強のウォッチャーの一人であり、また誰よりもプロ野球とシミュレーションゲームを愛する、「元・切込隊長」こと山本一郎による産業裏事情、時事解説メルマガの決定版!
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山本一郎(やまもといちろう)
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。