米国とイスラエルによるイラン攻撃が意味することを紐解く
2026/03/07 13時30分公開
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【人間迷路 Vol.505より】
2月28日の土曜日、夕方のテレビをつけたら米国とイスラエルによるイラン攻撃の開戦が報じられていました。いやー、なんだか世界が壊れていく象徴的な映像でやんすね。
もっとも、私がイランというかペルシャについて興味を持った90年代はホメイニ師がややこしいことをしていて、そのころからイラン人は宗教的な抑圧と強権的な政府とに押さえつけられていて可哀想だなと思ったりもしておりました。当時はあまり報じられませんでしたが、反政府的な活動をした人たちもかなり亡くなっていて、現代ペルシャの病巣は30年以上前からあったんじゃねえのと思わざるを得ません。
ただ、正直なところ、今回のアメリカは本当にやるとは思っていませんでした。イスラエルから説得されて「じゃあやったるか」という雰囲気になったのかもしれませんが、溜池通信の吉崎達彦さんも私とほぼ同じ心境だったようで、最新号(vol.833)では「トランプさんのことだから、最後は"TACO"るんじゃないか」と甘く見ていたと率直に書いておられます。筆者もまったく同感で、まさかここまで踏み込むとは、というのが偽らざる実感です。先に言いたいことをほぼ全部書かれてしまってどうなのかという気分もありますが、起きた内容の事実関係を整理しながら私見をまとめたいと思います。
まず、ここに至るまでの経緯を振り返っておきます。昨年2025年6月、イスラエルと米国はイランの核施設に対する攻撃を実施しています。いわゆる「12日間戦争」と呼ばれたこの作戦で、イランの核関連施設は「完全に破壊済み」とされ、同時にイラン軍の防空能力にも大きな打撃が加えられました。本件はいわゆる本丸の核不拡散の文脈もありつつ、どことなく手打ち感のある、シャンシャンのような面もあったんじゃないかと、そんな風に思っていたことが俺にもありました。
ここでいったん事態は収束したかに見えたわけですが、その後も米軍は2003年のイラク戦争以来の規模で中東周辺に展開を続けていました。そして今年1月にはベネズエラでマドゥロ大統領の拉致作戦を敢行し、同月23日に公表された国家防衛戦略(NDS)では米防衛産業基盤の強化が政策課題として明記されています。まあそれはそうすね。で、2月24日の一般教書演説ではイランを敵視する踏み込んだ発言が飛び出し、そして28日の朝――イランの最高指導者ハメネイさん、大統領、イスラム革命防衛隊(IRGC)幹部が一堂に会する瞬間を狙った「斬首作戦」が実行に移されました。
割と強烈なのが、1月にベネズエラであんだけでっかい作戦をやりきった、わずか二か月後だぞという点です。どんだけ凄いんだアメリカ、って感じです。
報道でもいくつか出てきていましたが、この攻撃のきっかけはイスラエル側がさんざんアメリカ側にも働きかけるだけでなく、イスラエルはその正確なインテリジェンスに基づき「単独でもやる」と通告してきたことにあります。2月28日午前8時15分にイラン指導部が集結するという情報を掴んでいたイスラエルが、この機会を逃すつもりはなかったわけです。いわば、宴会場でお疲れ様会をやっているところにやくざが襲撃してきたようなもんで、文字通り、ひとたまりもありませんでした。
米国としては、イスラエルが単独で動いた場合、報復攻撃が湾岸の米軍基地にも及ぶことは確実でしたから、それならば中途半端に傍観するよりも共同作戦で完全勝利を目指すほうが合理的だという判断に至ったようです。面倒だから完膚なきまでにやっちまえという話であります。いやー、マジかよ。そして、ジュネーブでウィトコフ特使とクシュナーさんが進めていた核協議は、結果として時間稼ぎに過ぎなかったことになります。
空爆によってハメネイさんの殺害には成功したものの、イラン軍は即座に報復を開始しました。米軍基地への攻撃にとどまらず、湾岸アラブ諸国の製油所など経済インフラにまで反撃は及び、ホルムズ海峡も封鎖されています。開戦から本稿執筆時点で7日目、まだごちゃごちゃやっており、事態は依然として流動的です。何より、当初トランプさんは二週間ぐらいのオペレーションで終結すると言っていたものが、最近では長期化しまっせと言い始め、なんかいきなり話が違うやんけという感じになっとるわけであります。
そもそもなぜ多くの人が「イラン攻撃はない」と読み違えたのか。私も「まあ無えだろ」と余裕をぶっこいてたわけですが、吉崎さんもまた、自らの判断ミスを丁寧に検証しています。「ドンロー主義」の原則からすれば、当然のことながら本件イラン攻撃のような中東の軍事行動は優先度が低いはずです。文字通りの"End endless wars"を掲げてきたMAGA派の方針とも矛盾するんすよね。いやマジで。昨年の12日間戦争で核施設を潰したばかりなのに、それを自己否定することになる――こうした常識的な推論はいずれも妥当に見えましたが、しかしそれはトランプさんという人物の行動パターンを過小評価した「勝手読み」だったと吉崎さんは認めておられます。よく考えたら、トランプさんが私のような日本在住の小市民の考える程度のことを想定すること自体が間違っているとも言えるんすよね。
そして、トランプさんの軍事行動には一定の法則性が見受けられます。特に、短期的・即興的に決断すること。専門家の意見や地域の歴史的背景を考慮しないこと。国内世論もそれほど気にしていないこと。「安全に勝てる喧嘩」の機会は逃さないこと。地上軍投入のようなリスクの大きい作戦は避けること。メッセージ性を重視すること。そして景気と株価に影響しない範囲で行動すること。この7条件に照らせば、防空能力の落ちたイランへの攻撃は「やって当たり前」というかやらないはずのない選択だったことになります。唯一の計算違いは最後の条件、つまりホルムズ海峡封鎖による世界的な石油価格上昇だけだった、と。
ここで気になるのは、この戦争がどう終わるのかという問題です。イラン側の戦略は明確で、米国が望む「短期決戦」を回避し、「長期消耗戦」に持ち込むことです。地上軍の投入を誘い出して本土決戦に引きずり込めれば、イランとしては成功という計算でしょう。これに対しトランプさんがいまになって長期戦の構えを強調しているのは、「物量では負けない」というメッセージを発信するためだと考えられます。
駄菓子菓子、実態はそう単純ではありません。現地の米軍基地が保有する迎撃ミサイルにも数の限りがあります。実際、米軍は湾岸の同盟国を守ろうとしていないようにも見受けられます。サウジアラビアやUAEからすれば、日頃から多額の防衛費を負担してきたにもかかわらず、いざというときに守ってもらえないのは「心外」でしょう。しかし米軍としては、手持ちのミサイルを自国とイスラエルの防衛のために温存したいというのが本音のようです。ウクライナ戦争が4年目を迎えるなかで突きつけられた教訓、すなわち現代戦では武器弾薬の「質」だけでなく「量」も決定的に重要だという現実が、ここでもそのまま当てはまっています。これはえらいことだ。
もうひとつ懸念されるのが、米国とイスラエルの間に今後生じうる齟齬です。イスラエルにとってイランとの平和的共存はありえない選択肢ですから、後継者が誰であれ、とことんイランの国力を疲弊させたい。いわば「出口戦略」を必要としない立場です。一方の米国は、できるだけ早く攻撃を終わらせ、足抜けをして、アメリカにとって害のない穏健な後継体制の成立を望んでいることになります。将来、9/11のようなテロを招くことになれば取り返しがつかない。この非対称性は今後ますます先鋭化し、米国内で厭戦機運と反イスラエル感情が高まる可能性があります。
ついでに、私がいま思い切り喰らっている相場面のことも含めて世界経済への影響についても触れておきます。ホルムズ海峡の封鎖はIRGCにとって「最後の手段」であり、トランプ政権がこれを想定していなかった節があることは、慌てて「米海軍によるタンカー護衛」を提案した経緯からもうかがえます。ただし、これで世界経済が深刻な危機に陥るかというと、必ずしもそうとは言えません。ホルムズ海峡を通る石油の最大の買い手は現在の中国ですが、その中国経済は個人消費の不振で減速しており、全人代では今年の成長見通しを4.5~5.0%に引き下げました。石油の需要そのものが伸び悩むなかで、価格が長期にわたって100ドルを超える事態は考えにくいというのが吉崎さんの見立てで、それは私も同意です。
同時に、中国とペルシャは戦略的パートナーシップを結んでいます。今回アメリカが自国設備防衛のために中東地域での同盟国に充分な防衛の手当てを行わなかったことに加えて、中国もまた、危機が迫っているとある程度認識していたであろうにもかかわらずイランを守るアクションを執ることができず、また、供与していた中国製兵器の役立たずぶりまで露呈させてしまい、アメリカに対抗するために中国と組んでも無駄なんじゃねえのというデモンストレーションをベネズエラに次いでまたしてもやられてしまったという意味にもなります。
日本にとっては石油高による物価上昇と円安が懸念材料になりますが、石油備蓄は254日分あるとされています。むしろ先に足りなくなりそうなのはLNGで、超低温保存が必要なために備蓄は3週間程度しかありません。カタールのLNG生産が止まっていることを考えれば、スポット価格の上昇は避けられないでしょう。ただ、この業界は2022年のウクライナ戦争勃発時に大混乱を経験済みですから、同じ轍は踏まないと信じたいところです。
最後に、この戦争がはらむより根本的な問題について考えておきたいと思います。今回の攻撃は宣戦布告も議会承認もない奇襲でした。1962年のキューバ危機のとき、ロバート・ケネディさんは「兄さん、米国はパールハーバーをやっちゃいけない」と進言し、それが閣議の大勢となりました。当時の米国には、冷戦下の「自由社会の守護神」として道義性を重んじる意識がまだ残っていたのですが、今回に関して言えば思い切りパールハーバーでありますので、大日本帝国の名誉回復が待たれるところです。もっとも、これは国際法違反だと非難が出る一方で、イランでは住民による大規模な反政府デモが発生するにあたり、イラン政府がかなり住民を虐殺してしまっているという点で多くの人道に対する罪、国際法違反が存在しています。アメリカ国内のみならず、イランや中東アラブ諸国においてもみんなまあまあイランが嫌いだったことも含めて批判する声が割と少ないなというのは体感としてもあります。
手続き軽視の問題は深刻ですけど、その断絶点となったのが、2001年の同時多発テロだったのでしょう。あれ以降、アフガニスタン侵攻、イラク戦争、ドローン戦争の拡大と続くなかで、「道義的優位」という制御装置は大きく緩んでしまいました。せいぜい開戦の口実をどこまでちゃんと揃えてBBR(Bad Boy Ratio)をコントロールするか、ヘイトを溜めないかというレベルのものになってしまった、とも言えます。そして現在の米国では、戦争は空爆やドローンや特殊部隊の作戦が中心で、徴兵も動員も日常への影響もほぼない。斬首作戦を担う電撃戦を行う軍隊が「プロ化」されたことで、国民の怒りも痛みも不要になった。統計家のネイト・シルバーさんが書いているように、ベネズエラでの米兵死者はゼロ、イランでも執筆時点でわずか4人です。いや、本当かどうかはまだ分からんし、これから増える可能性もあるでしょうけれども。
吉崎さんはこれを「怒りのない戦争」と呼んでいます。かつての米国はジョージ・ケナンが言ったとおり"Democracy fights in anger"――民主主義国は怒って戦争をする国でした。怒りがあるからこそ戦い、戦いが終われば「兵士を母親の下へ」という声が大きくなり、軍縮が進み、占領政策も寛大なものになった。しかし怒りのない戦争は、民主的な手段では止めにくい。大統領の一存で戦線を開けるようになった今の米国で、この戦争にブレーキをかけられるのは何なのか。私などは、開戦において鼓舞する"Arsenal of Democracy"、すなわちフランクリンルーズベルト大統領が民主主義の火薬庫と喝破した歴史を思い返してしまうのであります。
シルバーさんはトランプさんにとっての下振れリスクとして3つを挙げています。イランの産油量がベネズエラの5倍であり、かつ良質であることをふまえれば、ガソリン価格の上昇が消費者を直撃する可能性があります。まあそらそうよね。イスラエルとの共同作戦であることが選挙を控えるアメリカ政治において与野党双方に緊張をもたらすこと。そして有権者がイランやアフガニスタンの記憶から「これは戦争だ」と認識することでトランプさんによる実質的な「公約破り」と見なす可能性です。第1期トランプ政権はコロナ前まで好況で、海外の紛争にも巻き込まれなかった。今の状況はそれよりはるかに悪く、海外での冒険主義はレイムダック化を招きかねないとシルバーさんは警告しています。んで、来週あたりにいくつかアメリカの世論調査も出てくるかと思うんですが、あんまり楽観視はできねえよなというのが正直なところです。
開戦からまだ1週間、先の見えない状況が続いています。ただひとつ確かなことがあるとすれば、「米国の戦争」のかたちが決定的に変わってしまったという現実でしょう。怒りも痛みも伴わない戦争を、民主主義はどうやって制御するのか。その答えはまだ誰も持っていません。
蛇足ながら、日本においてはいま赤澤亮正さんが渡米し第二次日米ファンドの中身を詰めに行ってますが、今回の基地供与を拒否したスペインに対する脅迫のような、トランプさんのやろうとすることの意にそわない同盟国は同盟国でないかのような振る舞いに対して、日本はどう考えておくべきなのかは大事なことかなと思います。あわせて、今回湾岸同盟国がイランからの八つ当たりのような攻撃で被害を受けるにあたり、アメリカがそこまで積極的にこれらの同盟国を守るための活動をしたようには見えなかったのもポイントです。これさあ、台湾でドンパチあったら日本は日本で全部やらないといかんのではないの。
そこで、小泉悠さんも割と率直な懸念として出された、2050年ぐらいまでに日米関係ってかなり流動化する可能性ってあるでしょうよという議論になってきます。私なんぞは割とゴリゴリの民主主義者でバーキアンですが、その総本山であり盟主でもあるはずのアメリカが手続き全部フッ飛ばしてイランぶん殴ってるのを見て「おい、あれについていくのか…?」という冷静な議論はどっかに必要でしょうし、本来絶対的なパラメータであったはずの日米同盟そのものが相対的なただの変数に過ぎないぞという話になると、日本の安全保障も根本から再考しないといけなくなるでしょう。
いろいろと面倒なことは増えつつも、じゃあどうすんのよと言われると明確なビジョンは持ち得ない、なぜなら我が国はシーパワーであり中堅国だから、という意味合いになっていくのではないかなあと思います。そう考えると、韓国や台湾、ASEAN諸国、オーストラリアあたりは日本にとって抜き差しならない事態でご一緒するべき大事なパートナーであると同時に、アメリカなき東アジアという悪夢をどう過ごすのかということは真剣に考えとかないとねという風にも思ったりもします。
もっとも、トランプさんの時代が終わり、中国が人口減少による国内事情がより悪化してそれどころじゃなくなれば、日本にとっても少しは一息つける時期が来るのかもしれませんが。
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「人間迷路 Vol.505 イラン攻撃にまつわるあれこれを考えつつ、マンガワン問題や米国防総省のAI運用問題などについて触れる回」(2026年3月7日発行)序文より
山本一郎メルマガ『人間迷路』
ネット業界とゲーム業界の投資界隈では知らぬ者のない独特のポジションを築き、国内海外のコンテンツ制作環境に精通。日本のネット社会最強のウォッチャーの一人であり、また誰よりもプロ野球とシミュレーションゲームを愛する、「元・切込隊長」こと山本一郎による産業裏事情、時事解説メルマガの決定版!
山本一郎主催の経営情報グループ「漆黒と灯火」
真っ暗な未来を見据えて一歩を踏み出そうとする人たちが集まり、複数の眼で先を見通すための灯火を点し、未来を拓いていくためのサロン、経営情報グループです。
山本一郎(やまもといちろう)
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。
山本一郎メルマガ「人間迷路」編集部