世界中の観光地を覆いつつあるグローバリゼーションの影

2023/07/10 08時35分公開

高城未来研究所【Future Report】Vol.629(2023年7月7日)近況


今週は、オスロ、イビサ、フォルメンテーラ、ロンドン、フランクフルト、東京、那覇、阿嘉島と移動しています。


現在、沖縄では那覇への国際線本格乗り入れと本島北部本部港へのクルーズ船寄港が始まったこともありまして、昨年比3.5倍のオーバーツーリズムが顕著になっています。


県内唯一の公共交通手段である空港発のモノレール(ゆいレール)では、朝のラッシュ時に場所を取るスーツケースを持った旅行客が車内の出入口周辺にとどまってしまい、満員でないにもかかわらず、他の利用客が乗車できません。

朝の通勤時間と空港へ向かう旅行客が重なる午前9時前後の那覇市中心市街地の駅で乗車待ちの客を乗せられない「乗り残し」が頻繁に起き、事実、僕自身もあまりの混雑ぶりに辟易して一便パスしました。

市内のゴミ箱は入り切らず周囲に溢れ出したため、自動販売機周辺のゴミ箱は撤去され、ガラガラだった離島への船は満員になり、地元の人たちが帰島できなくなっています。

かつては誰もいなかった阿嘉島もインバウンドに占拠されてしまって宿がなく、平日でも連泊できませんでした。


また、人材不足やサービス欠如も深刻です。

コロナ禍で飲食店から離職した従業員が戻らず、レンタカー業者も廃業したこともあって、観光客の6割以上がレンタカーを利用するにも台数がコロナ前の約2万2000台から約1万5000台と約30%も減少。

一方、タクシーもドライバーの高齢化や台数の減少により、需要に応えられていない状況が続いています。


こうして、あらゆるモノと場所の取り合いが起きていますが、対処にあたろうとする県や市の観光課のスピードでは、もはや爆発するオーバーツーリズムの速度に対応できません。


先月、世界一の観光大国であるフランス観光相のオリビア・グレゴワールは、同国が長い間迎え入れてきた旅行者の数を減らす戦略をとることをついに発表。

この政策について「悪化した環境、地元の人々の生活の質」に対応するものであると述べました。


これを受け、マルセイユのカランク国立公園では、有名なスギトンの入り江への1日の訪問者をわずか400人に制限する予約システムを導入。

ブルターニュのブレハ島は、1日の訪問者数の上限を4700人に設定しました。


ここ数週間お伝えしておりますように、ポスト・パンデミックにおける顕著な話題として、世界各国でオーバーツーリズムが深刻で、時間も金もあまり使わない客で観光地があふれかえっていることが世界各国で問題視されています。

その結果、地域社会が観光業からの恩恵を十分受けられず、経済力を失い、社会システムの崩壊に直面していることが大きな課題として急浮上しているのです。 


なかには、市民生活が破綻する恐れがあることから、世界遺産を返上する可能性も取り沙汰されている地域があるほどです。

例えば、竹富島では住民329人に対し観光客は年間50万人を超え、特に環境破壊への影響が高く、大きく掲げていたサステナブル・ツーリズムと反する状況に陥ってしまっています。


モノから体験へとシフトした現在の観光業。


世界をまわって痛感するのは、過去四半世紀に渡ったグローバリゼーションの影が、いま、急速に世界中の観光地を覆っているように思えてなりません。


(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.629』の冒頭部分です)


高城未来研究所「Future Report

高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


高城剛 プロフィール

1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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