これからの日本の未来を静岡で夢想する
2026/10/26 08時30分公開
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高城未来研究所【Future Report】Vol.801(2026年10月23日)近況
今週は、静岡にいます。
秋が深まる静岡一帯は、天然ウナギのシーズンを迎えています。ウナギといえば夏の土用の丑の日が相場ですが、本来旨いのは秋から初冬にかけて。産卵のために湖を離れて海へ向かう「下りウナギ」は、遠く南の海までの長い旅に備えて脂を蓄えており、この時期にしか出会えない味があります。
ところが、この時期の鰻屋を歩いていて気づくのは、欧米からの観光客がほとんどいないことです。
その理由は、自著にも書きましたように、ウナギは西洋、とりわけ英語圏では、蛇の親戚のように忌み嫌われてきた魚だからです。旧約聖書には鱗のない魚を食べてはならないという戒律があり、ウナギは長らくそのひとつに数えられてきました。成魚を割いて炭火で焼き、甘辛いタレを纏わせて米の上に載せる文化は、世界広しといえども日本くらいなのです。
つまり、鮨を頬張る京都や鎌倉を埋め尽くす欧米の観光客が、ウナギを目当てに静岡周辺で降りることはありません。そしてもうひとつ、インバウンドにまったく知られていないのが、遠州灘の天然とらふぐです。
10月1日の解禁とともに舞阪の港に水揚げされる天然とらふぐは、多い年には国内の6割近くを占めると言われるほどの量ですが、長いあいだその多くは下関へ送られ、「下関のふぐ」として流通してきました。地元で食べる文化が育ったのは、この20年ほどのこと。
2003年に舘山寺温泉の旅館が「遠州灘天然とらふぐまつり」をはじめ、「遠州灘天然とらふぐ」は地域団体商標にもなりました。そして、舘山寺にはふぐの解体所が作られ、僕も取材で訪れたことがあります。ふぐの処理には免許が要り、これまではさばける人も場所も限られていました。獲れた海のすぐそばでさばき、その日のうちに風光明媚な宿で食べられるようになったというのは、小さなようでいて大きな変化です。
興味深いのは、このふぐが温暖化で美味しくなった、と地元の誰もが口を揃えること。海水温の上昇とともに遠州灘に集まるとらふぐは増え、脂の乗りも身の締まりも昔とは違うのだと言います。一方のウナギは稚魚の激減で絶滅危惧種に指定され、天然ものは年々、幻に近づいています。
さて、そんな静岡ですが、この夏、県とJR東海がようやく協定を結び、南アルプスの地下を貫くリニア中央新幹線の静岡工区が、この秋から動き出そうとしています。開業は早くても2036年以降と言われますが、そもそもリニアに静岡の駅はありません。県内を走るのは約9キロ、そのすべてがトンネルで、開業しても列車は一度も地上に顔を出すことなく、この県を通り過ぎていきます。思えば東海道新幹線も、県内に6つの駅がありながら、のぞみは一本も停まりません。静岡は、戦後の日本でもっとも「飛ばされてきた県」とも言えます。
しかし、飛ばされることは、先週の秩父同様、不便さによって守られることでもあります。
JR東海自身が、リニアが開業すればのぞみを減らし、東海道新幹線の県内停車を増やせる、と説明してきました。品川と名古屋が40分で結ばれ、東京・名古屋・大阪が人口6600万人の巨大都市圏にひとつに溶け合うとき、その真ん中には、海と湖と温泉と、西洋人の来ない天然ウナギと、まだ誰にも知られていない天然ふぐのある「穴」が、ぽっかりと空くことになります。
京都がオーバーツーリズムに悲鳴を上げ、日本中の観光地の値段が外国人向けに書き換えられていくなかで、東京から1時間の距離に、10月でも半袖で過ごせる気候と、気候変動とともに日々変わりゆく海の幸がある。温暖化で日本の食の地図が書き換えられ、南の魚が北上してくるなら、遠州灘はその最前線であり、ここに来れば日本の食の未来を一足先に味わえる場所になりました。
ホンダもヤマハもスズキもローランドも浜松から生まれ、この街は20世紀に「速さ」や「ビート」をつくって世界に出ていきましたが、21世紀の後半には、速さから降りた人々を受け止める場所になるのではないか、と夢想します。
20世紀は、速く着くことに価値がありましたが、21世紀の後半は、通り過ぎられた場所に価値が移るのかもしれないな、と考える今週です。
日本の未来は、速さの先ではなく、その「行間」で静かに育っています。
(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.801』の冒頭部分です)
高城未来研究所「Future Report」
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。
高城未来研究所「Future Report」編集部