グアム台風直撃で取り残された日本人に対して政府に何ができるのかという話

2023/06/02 20時44分公開

人間迷路 Vol.407より】


 旧聞となりつつありますが、猛烈な台風2号に直撃されたグアムで、電源の99%が喪失しグアム国際空港が被害を受けて2週間以上稼働しなくなるという天災がありました。そこに旅行や仕事でグアムを訪問していた日本人がかなりの人数取り残され、少し復旧したインターネットでグアム旅行者が「日本政府は何もしてくれない」的なことを書き、いつものヘルジャパンな感じで書き込みした人が叩かれておりました。被災した被害者なのにね。

 で、個人的に思うのは、たとえ旅行であったとしてもこれらの日本人が現地で被災して困っているのだから、政府は邦人の生命や財産を守るために救済に乗り出したり、関係先や諸国を通じて日本人の安全に便宜を図るべきと思うわけです。私の見る限り、岸田文雄さんも内閣官房も外務省もあまりこの面で具体的なコメントはしていなかったように思います。

 あまり安全ではない地域に渡航することのある私からしますと、この手の天災は確かに事前に渡航情報として注意しましょうと表記することはあっても被災した人は分かっていて訪問したのだから自己責任だと言われがちです。確かに話の半分はそのような情報にそもそも接していないか、情報を知りつつそれでも渡航を決断した本人に責任があると言われればそうかなと思います。

 ただ、そういう本人の責任論とは別に、生きるか死ぬかの状況になりそうな日本人に対して、その理由はともかく政府は役割としてこれを救う行動をする必要があると思っているんですよ。

 かつて、自分は死んでもいいから現地に行くと仰って、実際現地で拘束されちゃって猛烈にバッシングされた安田純平さんのケースなども想起されますが、そりゃ外務省などからすれば、やめろといったのに行きやがってという心情的なものがあるのは間違いありません。ただ、それでも行って捕まってしまったのであればその開放に政府が手を尽くすのは当然の責務であると同時に、どういう形であれ、現地に一番詳しいのは安田さんのような人なのだから、政府に対する考え方や日の丸がどうのこうのという話とは別に、状況についてきちんと話を聞き、いつなんどき別の何かがあっても判断の材料になるような、または交渉の人脈の手掛かりになるような話を取っておくのもまた必要なことと言えます。

 アルジェリアでのテロで、現地で操業していた日揮とその協力会社の日本人が多数拘束され、殺害されてしまった事件がありましたが、日本は政府としてまったく現地に浸透していないところでも日本企業はそっちに根を張って仕事をしているわけです。そういうテロ事件で拘束されたところへ自衛隊が駆け付け警護するなんてことは不可能ですし、現地で展開するには主権の問題はもちろんあるけれど、本来であれば、不測の事態などは世界各国で起きる可能性があるのだから日本人の安全確保のための情報交換は常に行われているべきであるし、いま以上にそのあたりの問題についてはセンシティブになっておかなければなりません。

 しかも、いわゆる領事業務については外務省自体がやりたがらないので、適当に弁護士業界から傭兵としてそういう問題に関心のある人を連れてきて据えたり、現地で活動している専門商社や日本人居住者を選任して連絡役にしてしまっている場合もあります。うっかりすると、外務省よりも現地で働く商社筋のほうが圧倒的に現地に根付いて情報が取れているケースも少なくありません。

 今回のグアムの件も、在ハガッニャ日本国総領事館ほか政府関連の組織の充足率が低すぎて、おそらくは、目立った被災日本人への支援はむつかしかったのではないかと思います。アメリカ領であるグアムですらそうなのだから、では台湾は、東南アジア諸国での有事があった際は、と思うとちょっと気が遠くなるところだと思いますし、もっと深刻にグアムでの一件はあり方について考えるべきなのではないかなあと思いました。

人間迷路 Vol.407 困難事態に遭遇した海外邦人救済のあり方に危惧を覚えつつ、衆院解散や2024年問題、AIブームなどについてあれこれ考える回」(2023年6月2日発行)序文より


山本一郎メルマガ『人間迷路

ネット業界とゲーム業界の投資界隈では知らぬ者のない独特のポジションを築き、国内海外のコンテンツ制作環境に精通。日本のネット社会最強のウォッチャーの一人であり、また誰よりもプロ野球とシミュレーションゲームを愛する、「元・切込隊長」こと山本一郎による産業裏事情、時事解説メルマガの決定版!


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山本一郎(やまもといちろう)

1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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