旅行者が新天地を探すことができるか試される時代
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高城未来研究所【Future Report】Vol.636(2023年8月25日)近況
今週は、シッチェスにいます。
バルセロナから45分ほどのところにある海辺のシッチェスは、映画祭やLGBTカルチャーで知られる人口3万人に満たない小さな街です。
この街にアーティストや知識人が集まるようになったのは、画家サンティアゴ・ルシニョールが夏の間滞在した19世紀まで遡り、20世紀中盤になるとフランコ体制下のスペイン本土でカウンターカルチャーの中心地となって「ミニチュアのイビサ」と呼ばれるようになりましたが、イビサのような商業化された巨大クラブはありません。
人口3万人のうち3分の1を超える人たちが他国からの移住者なため、どこもコスモポリタンの様相が漂い、バルセロナ空港から25分という好立地もあって、真夏は欧州中からの観光客で賑わいます。
このような国際感&利便性から人気沸騰し、いまでは不動産価格が欧州内でも急騰する地域になりました。
シッチェスの歴史を振り返ると、18世紀後半から20世紀初頭にかけてスペインの海外領土、特にキューバとの密接な関係を築きます。
当時、シッチェス出身の何千人もの若者が新天地キューバへ移住。彼らのほとんどは商業に従事し、なかには大成功して大企業を興した者もいました。
その後、一財産を築きシッチェスへ戻った彼らは「アメリカーノ」と呼ばれ、カリブ海を思わせる家にヤシの木を植え、キューバ葉巻を吸い、ラム酒を飲む習慣で知られていました。
このような歴史的経緯から、スペインのなかでも「ハイカラ」な街として古くから賑わっていたのがシッチェスです。
実際、キューバには「お爺さんがシッチェス出身だ」という人が多くいて、1898年の米西戦争により、スペインが海外領土を失った後もシッチェスからキューバへの移民の流れは続き、いまも多くの子孫たちが暮らします。
また、シッチェス経済は19世紀後半までワイン生産が中心でしたが、1874年にスペイン史上初の機械化された靴工場が町に設立され、20世紀半ばまでに地元労働者の約80%を雇用する強力な靴製造業が始まりました。
その後、1960年代の観光ブームにより靴製造の時代は終わりを告げ、地域経済は観光とサービスに依存するようになります。
小さいながらも文化が根付くこの街には、ゲイ・フレンドリーなホテル、アートギャラリーや素晴らしいレストランが立ち並ぶため、「隠しきれない快楽主義に酔いしれながらも、上品さを保つことができる街」だと評されています。
なにより風が気持ちいい!
「裏バルセロナ」とも言われるシッチェス。
観光も分散の時代だと言うのは簡単ですが、旅行者が新天地を探すことができるか試される時でもあるのだろう、と考える今週です。
(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.636』の冒頭部分です)
高城未来研究所「Future Report」
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。