観光業の未来を考える
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高城未来研究所【Future Report】Vol.644(2023年10月20日)近況
今週は、セビリアにいます。
オーバーツーリズムの現状と観光業の未来を見通すため、現在、観光大国スペインで開催されている「TOURISM INNOVATION SUMMIT 2023」に参加しています。
テクノロジーと持続的観光業を主題とするこの旅行サミットは、
・トラベルテック(スマートフォンからVRまで)
・観光イノベーション(AIによる定量分析)
・観光の持続可能性(環境インパクトの数値化)
・旅行者へのアプローチ(広告よりバイラルシフト)
・観光ビジネスとデスティネーションの競争力(観光地および客層の二極化)
などについて、多くの成功例や議論が交わされました。
なかでもサミット最大の関心は、オーバーツーリズムです。
毎年、行くべき旅行先「Go」リストを掲載している旅行雑誌『Fodor’s』は、今年観光客が避けるべき10の旅行先を特集した「No」リストもあわせて発表しました。
このリストによりますと、
1.浸食が進むフランスの海岸線(ノルマンディーのエトルタ周辺やマルセイユのカランク国立公園など)
2.カリフォルニア州タホ湖
3.南極大陸
4.バルセロナ、パリ、ドブロブニクのホットスポット
5.ヴェネツィアとアマルフィ海岸
6.コーンウォール(イギリス)
7.アムステルダム(オランダ)
8.マヤベイ、タオ島(タイ)
9.マウイ島(ハワイ)
10.アメリカ西部(パウエル湖とミード湖、アリゾナ州、ネバダ州、カリフォルニア州、ユタ州の一部)
は、夏のピーク時には絶対に避けたほうがいい「訪れることを再考すべき目的地」で、「控えめに言っても、ピークシーズンに地元の人々の生活を不愉快なものにしている観光客の数を支えるだけのインフラは存在しない」と編集者は語っています。
だからと言って、一切の観光客をお断りにするわけにもいきません。
観光業は、島嶼国や発展途上国の大部分において主要な経済的原動力であるのは間違いなく、地域社会にさまざまな利益をもたらしますが、同時に適切な資源管理や良心的な旅行者を上手く招き入れることができなければ、地域の苦境を増幅させ、社会的課題を大きくもたらします。
そこで、どうやって「良い客」を獲得するのか、識者や各都市がトライ&エラーを続けているのが現状です。
観光税をあげて総数を減らす施策や、いままで魅力的に映らなかった地域をブランディングして観光客を分散させることなど、様々な取り組みが世界各地で実験中です。
理想は、観光客数が減って(セグメントされて)、客単価が上がることに他なりません。
果たして、どの戦略が功を奏するのか?
それとも、反グローバリゼーションと迫り来る不況が、観光客を自然淘汰するのでしょうか。
ちなみに、京都の金閣寺の入場料が今年値上げされて500円になったのに対し、現在、バルセロナのサグラダファミリアは最低4000円以上(コースによる)、同じガウディ建築のカサ・バトリョは 6500円します。
いま、日本の観光地は、誰に何を言われようが驚くほどの値上げをする英断を迫られているのではないか、と考えざるを得ません。
このトピックは、どこかで一冊にまとめる予定です。
気がつくと、南欧もすっかり秋になりました。
数ヶ月前に訪れた時には40度を超えていたセビリアは、観光シーズンも終わり、古き良きスペインを取り戻したように見える今週です。
(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.644』の冒頭部分です)
高城未来研究所「Future Report」
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。