現代の変化に対応できず長期停滞に陥っている双子のような日本とイタリア

2025/08/11 08時35分公開

高城未来研究所【Future Report】Vol.738(2025年8月8日)近況


今週は、フィレンツェににいます。


ルネッサンスの古都フィレンツェは、今年、記録的な猛暑に見舞われています。バルセロナなど地中海沿岸部は、日々最高でも29度から30度程度ですが、内陸部のヨーロッパの熱波傾向は凄まじく、とりわけ盆地に位置するため熱がこもりやすいフィレンツェでは、連日38度を超える厳しい暑さが続いています。


湿度が日本より低いのがせめてもの救いですが、石畳の街並みが蓄えた熱を放出し、太陽がジリジリと肌を焼くような感覚は、まさに「天然のオーブン」と表現されるほど。過去には42℃を記録したこの街にとって、猛暑はもはや夏の風物詩となりつつあります。ローマ時代初期は、キリスト教ではなく、太陽神を祀っていたのも実感できるところです。


さて、自著などで何度もお伝えしてきましたように、日本の現状はイタリアと驚くほど多くの類似点を持っており、両国はしばしば「先進国の病」の典型例として比較されています。

日本とイタリアは、どちらも「過去の栄光と、それを支えた社会構造」が足枷となり、現代の変化に対応できずに長期停滞に陥っている双子のような存在です。両国の類似点は、現象面だけでなく、その根底にある構造的な問題(つまりシステム)に大きな問題が潜んでいます。


南北に長い国土を持つ日本とイタリアは、共に1860年代に大きなリセットが起き、新しい社会が始まりました。近年では敗戦した第二次大戦後の高度成長期に大きな成功を収め、その過程で作り上げた「家族主義的な企業経営」「手厚い社会保障」「職人技を重んじる文化」といった共通の強みを持っていました。


しかし、グローバル化とデジタル化の時代において、その成功モデルそのものが変化への足枷となってしまい、過去の成功体験に縛られ、制度疲労を起こています。

また、両国は世界でトップクラスの高齢社会であり、合計特殊出生率も極めて低い水準で推移しています。日本は世界一の高齢化率(65歳以上人口の割合)を誇り、人口減少も加速していますが、イタリアは日本に次ぐ世界第2位の高齢化率で、日本と同様に出生率が低迷。近年、若者の国外流出が大きな問題となっています。


1989年にベルリンの壁が崩壊し、グローバリゼーションと情報化社会が到来しましたが、両国ともに1990年代以降、古いシステムの延命に力を注いだ結果、主要先進国の中で著しく低い経済成長率に苦しみ、日本では硬直的な雇用慣行が労働力の流動性を妨げ、企業の「創造的破壊」が進んでいません。


日本より先行するイタリアでも、非効率な中小企業が温存され、新陳代謝が起きにくい構造が出来上がってしまっています。賃金が上がらず、デフレが慢性化。国民は将来への不安から消費や投資に消極的になり、経済がさらに停滞するという悪循環が長年にわたって定着してしまいました。

現在、イタリアは中道右派連立政権が強い主導権を握っており、メローニ首相のもと、「イタリアの同胞」を中心とする連立が防衛費拡大や減税策を矢継ぎ早に打ち出し、「国益最優先」路線へと舵を切りました。


しかし、本質的なイタリアの危機は、選挙や国民投票への「熱意の喪失」にあります。

今年6月の国民投票は投票率28%しかなく、すべての設問が成立せず無効化され、社会関与の空洞が露わとなりました。現政権は棄権戦略を選び、野党は組織力低下で十分な動員ができずに、中道右派、左派野党、そして広範な無党派・無関心層といった三極構造が固定化しつつあり、民主主義への信頼は危うさを増しています。


この結果、イタリアは加速度的に深刻な人口減少局面に入りました。2025年現在、人口は約5850万人まで減少し、特に無党派・無関心層、若年層の国外流出と出生率低下が顕著で、具体的には、20~40代前半を中心とした年間約30万人が他のヨーロッパ諸国などへ移住する傾向(国家脱出)が続いています。その多くは雇用機会や将来への展望、子供の教育を求める動機によるもので、実際、バルセロナにもイタリア社会に嫌気がさした人たちが大勢移住しているのが、現在です(その結果、美味しいイタリアン・ジェラート屋が急増中)。


特にミラノなどの北部都心と南部(メッツォジョルノ)の間の格差は広がるばかりで、南部の1人あたりGDPは北部のほぼ半分しかありません。イタリアも日本と同じく、北部都心から南部過疎地域への大規模な財政移転(GDP比で南部6.5%、北部2%)が続いており、この施策にも限界が生じています。


また、こちらも日本同様、都市圏以外の農村・中山間地域では人口減少・高齢化が急激に進行。EUの最新モデル(DELi)によりますと、今後20年でイタリアの都市圏以外の人口は年間平均4%から12%減少し、中でも都市から遠い地域ほど急速な縮小が予測されています。人口流出で税収や公共サービス需要も減り「デジタル格差」「医療・交通インフラの後退」など二次的な弊害も深刻です。


政策も日本同様、防衛費の増額(GDP比2%へ)、所得税減税や少子化対策推進により中低所得層の支援を強調していますが、主要EUメディアは「時遅し」と断罪し、事実、逃げ出すように若年層や中間所得者の流出に歯止めが効きません。公的債務はGDP比134.6%とギリシャについでユーロ圏第2位。債務の今後の膨張も止まる気配はなく、こちらもリスク高と懸念されています。


今後、おそらく日本も同じような轍を踏むことになると思います。なにしろ経済のカンフル剤として財政出動を繰り返した結果、両国は巨額の政府債務を抱えましたが、実態は既得権の延命治療に使われてしまい、将来世代への負担の先送りが顕著だからです。


今後、金利が上昇した場合には財政を著しく圧迫するリスクを抱え、新たな危機に対応するための財政的な余力も乏しくなっています。そのため年々社会が窮屈になり、特に若年層が次々と国を離れているのが、先行するイタリアの現在の姿なのです。


イタリア有数の観光都市フィレンツェも、オーバーツーリズムと対峙する反面、歴史地区に住む生粋のフィレンツェ市民が、次々と街から流出しています。


「住民が暮らす街」から「人々が訪れる街」へと、地域の性格が変質している「住民の入れ替え(Resident Replacement)」に喘ぐフィレンツェ。


日本の課題を考える上で、イタリアは「もう一人の自分」を映し出す極めて重要な鏡なのだろうな、と考える今週です。


(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.738』の冒頭部分です)


高城未来研究所「Future Report

高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


高城剛 プロフィール

1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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