富める中東の地で都市化と食生活を考える
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高城未来研究所【Future Report】Vol.631(2023年7月21日)近況
今週は、ドーハにいます。
過ごしやすかった南半球のブラジルから、中東のカタールへ移動しました。
日々最高気温45度、最低気温37度と、先週滞在したサンパウロ郊外最高気温27度、最低気温12度から大きく異なり、時差ぼけよりも気温ボケが堪えます。
カタールは「国家」ではありますが、カタール人は30万人しかおらず、この人口は品川区民を下回ります。
他はエクスパッドと呼ばれる移住労働者が200万人以上いることから、カタールの人口は250万人程度となりますが、それでも世田谷区、練馬区、大田区の合計人口とほぼ同等な小国家です。
この小国が世界的に注目を集める理由は、世界第3位の天然ガス埋蔵量と石油埋蔵量を背景に、リッチな国としてワールドカップの誘致などを成功させているからですが、1930年代に石油が発見されるまで、産業らしい産業は何もなく、英国に庇護された小さな地域でした。
その後、1970年代に英国から独立。
まだ、国家成立して50年程度の国ということもあって、いまも英国や米国と極めて近しい存在です。
さらに、1995年に(英米のバックアップを受け)無血クーデターで父親を打倒したハマド・ビン・ハリファ・アル・タニが、汎アラブ衛星ニュースネットワーク「アルジャジーラ」の創設や、カタールによる地域紛争の調停などを通じ、広範囲に及ぶ政治・メディア改革、前例のない巨額な経済投資による地域指導的役割の拡大を先導します。
そして2000年代に入ると、カタールはバーレーンやサウジアラビアとの長年の国境紛争を解決し、2007年にはカタールの一人当たり所得が世界一に躍り出ることになりました。
現在は、息子のタミム・ビン・ハマド現首相に権力を移譲していますが、基本的に土着豪族であるサーニー家の世襲君主制国家であり、一時は内閣閣僚の6割はサーニー家が占めていたほどです。
昨年、米国はカタールを主要な非NATO同盟国に指定しており、事実上、英米の中東における橋頭堡となっていることから、中東初のFIFA男子ワールドカップの誘致に成功しています。
なにしろ、英米の代弁者となって、リビアとシリアにおける多くの民衆革命への支援をしており、この様相は米国におけるアジアの代理人と揶揄された1990年代までの日本と酷似しています。
また、農地や森林がまったくないことから、飲料水に至っても輸入に頼らざるを得ず、インフラ等高度な都市生活を求め、国民の9割が首都ドーハで暮らしています。
つまり、ドーハが新生カタールという国家そのものですが、急速な都市化に国民の体がついていってないように思えてなりません。
その顕著な例が、糖尿病です。
現在、20歳から79歳までの成人およそ25%が糖尿病で、60%が糖尿病予備軍になってしまっており、一体、ラマダンはなんのためにあるのでしょうか?
「断食月」とも呼ばれるラマダン期間中は、日の出から日没までの合間の飲食が禁止で、食べ物だけでなく水分の摂取も禁じられており、本来はさまざまな欲望を抑え、自身の信仰心を深めることが目的 とされています。
実は、イスラムの経典「コーラン」には健康増進や疾病予防の秘訣が多く記載されており、豚肉は寄生虫が多い、お酒は利尿作用があり脱水を起こしやすいなど、まさに「砂漠の民の養生訓」が記載されています。
しかし、現在のカタール国民は、飽食に溺れ、「肥満」とされる体格指数「BMI」30以上が4割近く、喫煙率も2割を越えています。
そこで、健康食とみなされる寿司が大変人気ですが、多くの人たちはコーラを飲みながら、寿司を何十貫も頬張ります!
本来、豊かさと糖は比例するものではありませんが、巧みなマーケティングにより、糖が姿形を変え近代生活に入り込んでしまっています。
国破れて糖ビジネス在り。
潤沢なエネルギー資産は、換金されただけでなく、換糖されてしまったのでしょうか?
暑さゆえに外を歩く人もいない、国民全員が運動不足なカタールで都市化と食生活を考える今週です。
(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.631』の冒頭部分です)
高城未来研究所「Future Report」
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。