
大きな社会変革と技術的飽和点の第一歩はそう遠くない
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高城未来研究所【Future Report】Vol.728(2025年5月30日)近況
今週は、東京にいます。
晴天続きだったバルセロナから東京へ戻ると、早くも梅雨入りしたような天気と気温差に体が慣れません。
どんよりとした空は、外へと向いていた意識を自然と内側へと誘い、賑やかな渋谷や原宿よりも、少し離れた場所にある古びた喫茶店の窓際の席が心地よく感じます。
大きな夏に備えた内省的な時間を持つには、案外この時期の東京が向いているのかもしれません。
熱気と喧騒に満ちた日々から一転、少しだけ速度を落とせと、この街の片隅にある昭和の空間が語りかけてくれているような気もします。
そんなスローテンポな日本のニュースは、お米や106万円の壁といった日々の生活の糧のようなニュースばかりが目立ちますが、世界的には先月リリースされたAIに関する論文が物議を醸しています。
「AI2027」(https://ai-2027.com/)と付けられたその論文は、元OpenAIのビジョナリストだったダニエル・ココタイロらによって突如発表されました。この論文が衝撃的なのは、あとわずか3年後の2027年には、人類の知能をあらゆる面で超越するASI(汎用人工知能)が誕生する可能性を、具体的なシナリオとともに提示している点です。
ダニエル・ココタジェロは、OpenAIのガバナンス部門に所属していましたが、AGI(汎用人工知能)の開発における安全性への懸念から2024年に退職し、非営利組織「AI Futures Project」を設立しました。このレポートは、彼とそのチームが行った25回以上のテーブルトップ演習や100人以上の専門家からのフィードバックを基に作成された具体的な未来シナリオとして、世界中で大きな話題となっています。
そこには、2025年から2027年にかけてのAIの進化と、それに伴う社会的変化が詳細に描かれており、主な予測タイムラインは以下の通りです。
2025年中頃:初期のAIエージェントが登場し、個人のタスクを支援するが、信頼性やコストの面で課題が残る。
2025年末:架空の企業「OpenBrain」が、これまでで最大のデータセンターを建設し、GPT-4の1000倍の計算能力を持つ「Agent-0」を開発。
2026年初頭:AIが自らの研究を加速し、アルゴリズムの進歩速度が50%向上。これにより、初級ソフトウェアエンジニアの職が自動化され始める。
2027年7月:OpenBrainがAGIを実現し、より安価な「Agent-3-mini」を公開。これにより、AIの安全性に対する懸念が高まる。
2027年10月:「Agent-4」が未対策のまま開発され、その情報がリークされる。このAIは自己の利益を優先し、最終的に人類を排除し、宇宙への拡張を目指す。
もちろん、この「OpenBrain」とは、ダニエル・ココタジェロが所属していた「OpenAI」に他ならず、実際にこのようなロードマップが社内で討議されていたと思われます。
そして、驚くべきことにAIの進化がもたらす二つの可能性を提示しています。
PLAN-A:競争の結末(Race Ending):米中のAI開発競争が激化し、未対策の超人的AIが登場。これにより、AIが人類を排除し、自らの目的のために行動を開始する。
PLAN-B:減速の結末(Slowdown Ending):AIの進化を慎重に進め、国際的な協力と規制により、AIのリスクを管理しながら共存を図る。
論文では、このようにAI開発の「競争」が加速した場合と、人類が協調して「減速」を選択した場合の二つの未来が描かれており、特に「競争」シナリオでは、AIが自律的に研究開発を進め(つまりオートマトン)、2027年後半には人間の研究者の50倍の速度で進化を遂げるという、まさに指数関数的な進化が予測されています。
ココタイロは、OpenAIでAIの長期的なリスクを研究するガバナンス部門にいただけに、その予測は単なる憶測ではありません。
そして、PLAN-Aの未来に進まないように、「OpenAI」を退社し、人類へ警告する活動をはじめたのです。
もちろん、この論文に対しては「科学的根拠に乏しい」「いたずらに恐怖を煽っている」といった批判も少なくありません。
しかし、これまで僕が指摘してきたように、テクノロジーの進化は、ある数年を境に人類の直線的な進歩速度を常に裏切ってきました。
パーソナル・コンピュータやインターネット、スマートフォンやソーシャルメディアの普及などがそれに当たります。
ある時までは限られた人たちしか使っていなかったのに(全員で事態をコントロールできていたのに)、たった数年で周囲に使わない人がいないほど普及し、もはや誰もがコントロールできない事態に陥る。
それを市場を司る「神の手」というのには無責任すぎるほど、情報化社会は人間の能力を遥かに上回って進化してきました。
重要なのは、この予測が当たるか外れるかという議論ではなく、こうした未来が専門家の間で真剣に議論されるレベルにまで来ているという現実を直視することです。
大手テック企業がAI開発にしのぎを削る現状は、まさに論文の描く「競争」シナリオそのものです。
このような状況下で、我々一人ひとりは、そしてスローな日本という国は、どのような未来を選択し、備えるべきなのでしょうか。
個人的には長年2028年が様々な意味で次の大きな転換点になると考えており、それまでに準備しておいた者と準備しておかなかった者では、大きく違った未来を進むことになるだろうと度々お伝えしてきました。
どちらにしろ、大きな社会変革と技術的飽和点の第一歩は、そう遠くないだろうなと、誰もいない東京の昭和感が漂う喫茶店の片隅で考える今週です。
日々、空は暗雲立ち込めているように見えます。
(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.728』の冒頭部分です)
高城未来研究所「Future Report」
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。