医療が「治療」から「理解」へと移行する世界的な潮流
2026/04/27 08時30分公開
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高城未来研究所【Future Report】Vol.775(2026年4月24日)近況
今週もバンコクにいます。
現在、タイは世界有数の医療観光大国に成長し、年間数百万人規模の海外患者を受け入れています。
国際認証を受けた医療機関が、欧米価格の三分の一から五分の一の費用で高度医療を提供し、超富裕層向けウェルネスクリニックでは、全ゲノム解析、エピジェネティック検査、腸内マイクロバイオーム解析、各種イメージング検査が普通に組み合わされていて、「病気になってから治す」という時代遅れの医療モデルは、徐々に終わりかけているように感じます。
ちなみにタイの最先端クリニックは日本より高額で(外国人値段含む)、実際に伺うと病院がまるでホテルのロビーのような空間になっており、ここには日本の医療が失った「ホスピタリティとしての医療」が全面的に押し出されているのも特徴です。
日本の国民皆保険制度は世界に誇るべき仕組みである一方、制度の性質上、予防医療や個別化医療、ましてやホスピタリティの領域では保険外診療の形でしか発達できない構造的な制約を抱えています。
検査項目が制限され、なにもしなくても客が来る医療機関は効率化のため画一的なプロトコルを採らざるを得ず、結果として「個人の生物学的固有性」を丁寧に読み解く時間が確保されにくいのが現状です。
これはよい悪いの話ではなく、制度設計の必然的な帰結だと思われます。だからこそ、日本で育った人たちが外に出て、別の医療文化に触れたときに、初めて自分の身体の見方が根本から更新される経験をします。僕自身、長年のアーユルヴェーダ体験からも実感するところです。
さて、5月1日からいよいよ神宮前統合医療クリニックで「ブレインマップ」検査が始まります。これは最新の19チャネル定量脳波解析(qEEG)に、血中p-tau217測定など、現時点で国内で実現されている中では最も包括的な「脳の状態」の可視化検査です。40代からはじまる認知症のための超早期検査やうつ、不安症、そして近年急増するお子さんたちのADHDやASDなどの現状を映し出し、対策をたてるための手がかりとなります。
脳は、これまで医療のなかで最も「見えない臓器」でした。心臓にはエコーがあり、肝臓にはCTがあり、胃腸には内視鏡があるのに、脳だけはMRIで「構造」は撮れても「働き」を日常的に測る手段がなかなかありません。しかし、ここ数年で状況は劇的に変わりつつあります。
ヘッドセット型の高性能EEG装置が医療グレードの解析を可能にし、血液一滴から何年後にアルツハイマー病が発症するか高精度で予測できるp-tau217測定が実用化され、AIとクラウド解析により統合的に読み解くプロトコルが整ってきました。
脳の状態を、構造ではなく「働き」として、数字で可視化できる時代が、やっと到来したのです。
僕自身、この「ブレインマップ」検査を受け、61歳の自分の脳の現在地をじっくりと眺めると、驚くべき所見がいくつもありました。
まず、良い点としては IAF(Individual Alpha Frequency=個体アルファ周波数)が11.25Hzもありました。IAFは視床と皮質のループの処理速度を直接反映する指標で、年齢とともに低下していくことが知られ、61歳の平均は9.7Hz前後で、80代になると8Hz台まで落ち、加齢速度は年あたり約0.02Hzほど降下します。
ところが僕のIAFは20代前半の水準です。これは40歳も脳がアンチエイジングできているという驚愕の事実で、長年の瞑想実践、断食習慣、そして世界を移動しながら常に新しい情報と環境にさらされ続けるライフスタイルなどが積み重なった結果ではないかと考えます。
あるいは、もっと深層の体質的な要素が働いているのかもしれませんが、いずれにせよ、この数値を自分で見て確認できるというのは、それ自体が驚きの体験でした。
しかし、同じデータの別の部分を読むと、話はそう単純ではなくなります。
僕の脳では前頭デルタが48.2%に達していました。これは通常なら20代で8%程度、高齢でも30%を超えることは稀という数値です。DAR(Delta/Alpha Ratio)は18.26で、正常値1〜3を大きく超えています。
TAR、TBRも同様に高値なため、普通に読めば明らかな警告所見となり、一般的な臨床的解釈では前頭葉機能低下のパターンに近い値です。
ただ、IAFの異常な若さとDARの異常な高さは、通常は同じ方向に動く指標であり、この矛盾こそが僕の脳の独自性を示しています。
普通の人なら覚醒と鎮静、集中と弛緩が明確に分かれるところ、僕の脳では常にそれが同時に起きている「半トビ」のような状態が持続していることを示しています。
覚醒していながら内的世界に潜っている、移動していながら深く沈んでいる、会話していながら別の次元が並走しているような状態が、どうやらデフォルトになっているようです。飛行機のなかでも、カフェでも、撮影現場でも、こうして原稿を書いているときでも、脳のどこかで常に深い層が開いている感覚があり、それが前頭デルタの高さとして可視化されていました。
こうした解釈は、一般的な臨床脳波の読影ガイドラインからは外れます。
通常の病院でこのデータを持ち込めば、「MCIの疑い」「認知症のリスク」という評価が下される可能性が高いのですが、それは「平均的な脳のプロファイル」を前提にした解釈であって、血液データ同様、すべての人に必ずしも当てはまりません。
ここが今回の「ブレインマップ」の面白いところで、単純にスコアを出して赤黄青で色分けするのではなく、数値の背後にあるその人の生き方を読み解くのが大きな特徴です。
加えて、後頭アルファピークが検出不能という所見がありました。
閉眼安静時に後頭部に現れるべきアルファリズムが出てこないのですが、これは「脳が休まらない体質」を示唆する所見で、戦闘モードから休息モードへの切り替えが構造的に難しいタイプの脳の特徴です。
長年、世界を動き続け、情報を獲得し続ける生活のなかで、僕の脳は常時低レベルの警戒と覚醒を維持するようになっており、これは強みでもありますが、同時に長期的な健康戦略上は意識的にダウンシフトを設計しなければならないポイントです。
さらに、左右側頭葉(T3-T4)のアルファコヒーレンスが0.047という値も出ました。健常成人の0.3〜0.5と比較して極端に低い数値で、これは左右の側頭葉が独立して動いていることを意味します。
側頭葉は聴覚処理、情動記憶、言語処理の中心であり、左右の機能分化が大きい領域ですが、ここまで独立しているというのは、頭のなかが常に並列処理的に動いており、マルチタスクが機能していることを意味します。
「ブレインマップ」が面白いのは、これら複数の指標を単独で見るのではなく、統合的に読み解くところにあります。qEEGだけを見ても、p-tau217だけを見ても、APOE型だけを見ても、全体像は見えません。
脳の活動、タンパク質、遺伝的素因など、これらを重ねて初めて「いま自分の脳に何が起きていて、この先どうなっていくのか、そのために何をすべきか」という立体的な地図が現れるのです。
当然ですが、この地図は人によって全く違います。僕のような長年で高感受性のプロファイルを持つ「半トビ」人間と、ストレスマネジメントが苦手で前頭葉活動が低下している多くの現代人と、すでに軽度認知障害の前段階にある高齢者とでは、同じ「ブレインマップ」でも読み方も介入策も全く異なります。
だからこそ、データを出して終わりではなく、そこから個別の総合解釈と対話が始まる仕様になっていて、さらには脳を鍛えることも可能です。
「ブレインマップ」検査は、単なる「脳の検査」ではありません。個人が自分自身の神経生理学的な個別性を、制度化された医療の枠を超えて、自分のものとして受け取るための仕組みです。
保険医療では扱いきれない「個人の固有性」の領域に、正面から踏み込むためのプロトコルでもあり、なにより現在の自分と向き合う最高の地図に他なりません。
タイのメディカルツーリズムが示しているのは、医療が「治療」から「理解」へと移行しつつあるという世界的な潮流です。
病気になってから対処する医療から、自分の身体と状態を深く理解し、日々の選択に反映させていく医療へ。そして、今日より良い明日のために、アップデートする方法をみつける。
いよいよ始まるブレインマップ検査は、その流れの日本における実装のひとつだと考えます。
今週のタイの風は、乾季の終わりを告げる湿り気を帯びはじめました。
もうじき、モンスーンの季節がやってきます。
(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.775』の冒頭部分です)
高城未来研究所「Future Report」
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。
高城未来研究所「Future Report」編集部