「画面上のフラットな世界」あくた話01:ノマド兼好
0-
0
3年ほどのコロナ禍で広がった「オンライン」での仕事形態。
「あ、これってわざわざ会社に行かなくても進むじゃん」という仕事が意外に多かったことに気づいた人もいた。
一方で「こういう内容は対面で話し合わないと良いアイデアが生まれない/スムーズに進まないな」という気づきもあった。
私はコロナ禍前から完全在宅の仕事をしていて、コロナ禍の期間中を含めると6年間をオンラインでの完全在宅業務に従事していた。
今回はオンライン完全在宅仕事の経験者である筆者が感じた『指示力と雰囲気』について書き残そうと思う。
■行間と空気を読まなくていい心地よさ
コロナ禍で在宅勤務の増えた人からよく発せられた言葉。
「オンラインツールじゃうまく真意が伝わらないことが多くて」
「文章だとニュアンスが伝わりきらないんだよな」
これは本当にそうだと思うし、空気感が伝わるからこそ、対面のコミュニケーションは大事だなと思うのは私も異存なしだ。
ただ、この言葉たちを聞くと自分の思考の奥底には「いや~…仕事の内容だけならテキストとオンラインツールだけでも充分なんだけど」という誰にも言えない思いが渦巻いた。
特に、男性に対して、この気持ちを渦巻かせることが多かった。
私は男性の「大きな声」とか「低く重い声」が苦手だから、仕事で意見に相違があった際、(本人は意識してないだろうけど)少しトーンを落としてしゃべられるとか怒ったように反論してこられると平常状態よりは委縮する。
だからと言って自分の意見をすぐに引っ込めることはしないけど、どこかで「怖い」とか「これ以上怒らせたくない」という思いを本能的に抱いてしまう。
しかし、オンラインのチャットツールだと、相手の声のトーンもニュアンスも、ましてや空気も目線も気にしなくてよいので、ストレートに自分の考えを述べられるしどんな言葉も委縮しないで済む。
相手も、チャットツールという「残る」ものの上で(しかも社内の多くの人が目にするツール上で)、下手に威嚇したような表現はできないから表現は「淡々としたビジネス表現」になる。
相手の性別も何も気にしなくていいツールは、その世界の中で「ジェンダー」を意識させない純粋なビジネスの場となっていたな、と私は感じた。
■雰囲気だけで上にあがった人
アイデアは最高でも指示が最悪なトップはいる。アイデアが最高なだけマシなんだけど、そうでない場合もある。
勢いと雰囲気で「上の方」にいる人は、実は「優秀な部下」や「優秀な周囲」がいたから、言葉足らずな指示でも補ってもらえたし、ボロが出なかっただけだと思う。
で、そういう人は対面で仕事をしている時は「あの人は元気(はったり)でなんかすごそうな人に見える」と誤魔化せるけど、オンラインで仕事をし始めると途端に「指示力なし」が露呈するのだ。
しかも「読む側が解釈に困る指示」や「解釈の幅が広すぎて何を言っているのか?」という指示を出しておいて、指示内容を整理して聞こうとすると「わからないお前が悪い」と言い出す。
例えば、15分きざみに別の会議が立て込んだ日の部下に、いきなり「さっきのデータ出しといて」という指示をテキストで出してくる(上司はいずれの会議にも参加してない)。
いやいや、さっきっていつよ?一体なんのどれのデータだよ、というところだけれど、それはこちらが推察しなければいけない(この時間が無駄)。
ただこちらだって間違ったデータを出してる暇はないから、一応「どのデータですか」とは聞く。けれど、その答えは「会議出てればわかるでしょ」となる。
一種のいじめかな、とも思えるし、そのテキストを打つ時間があるなら「B会議で出してたやつの詳細」と打つのだって労力は変わらないのではと思うけど、もしかしたら的確な指示をしたら死ぬ病気なのかもしれないと割り切ってやり過ごす。
ただ、こんなやり取りが続けば人間は辟易し、質問しにくい職場がすぐにできる。
今回の例の場合、「察した結果」別のデータなんて出した日には「わからないなら最初に聞いて」と言われるからたまったもんじゃない。
■フラットな場は心地よかったけれども今後は
ジョブズ氏とかイーロン・マスク氏のように一部、アイデアの湧く泉が服着て歩いているみたいな人は、指示が下手であったとしても「指示が下手」を「アイデアがすごい」が凌駕するのでいいと思う。
でも、テキストでの指示がうまくできない人(でなんか知らんけど上の方にいる人)は基本「周りがめっちゃ察する能力が高いからそこにいるんやで」というのを忘れて欲しくない。
あと、性別による何らかの配慮がなくなるテキスト上では、女性側も「泣いちゃう」は使えないし、「泣かせない」ことを男性に配慮させることができない点も重々理解されたし、と思う。
いろいろとリアルなコミュニケーションの大切さに気付いたコロナ禍ではあったけれども、私としては「雰囲気で誤魔化してた人がそれを使えなくなった」を目にすることがありしみじみと感慨深い思いがした3年でもあった。
著:ノマド兼好