イランの転機を実感させる強い女性達の姿
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高城未来研究所【Future Report】Vol.632(2023年7月28日)近況
今週は、イランのイスファハーンにいます。
昨年9月、ヒジャブの着け方とタイトなズボンに問題があるとして風紀警察に拘束されたマフサ・アミニは、連行後にバンの中で暴行を受け意識を失い、3日後に死亡しました。
これに伴い、イラン各地での大規模な抗議デモが発生。
国営テレビがハッキングされ、最高指導者ハメネイ師が炎に包まれた映像が流れ、1978年のイラン革命後でもっとも大きな転機を迎えることになりました。
この抗議デモ以降、イラン全土の女性が次々とヒジャブを脱ぎ捨て、往来を闊歩するようになります。
今週、僕が滞在するイスファハーンは、宗教色が強い古い街ですが、ここも他ではありません。
髪を赤く染め、派手な色の服を着て、それまでのイランとは訣別するような「強い女性」が街を堂々と歩くようになったのに、正直驚きを隠せません。
一方、古いしきたりも強く残ります。
今週はムハッラム月の10日目があり、「ヤウム・アル=アーシューラー(「10番目の日」の意)」と呼ばれる断食贖罪の日とされていますが、この日はイマーム・フセインの殉教日でもあることから、とくにシーア派の信徒の間で熱心に宗教行事が行われ、町中「黒」一色に染まっています。
予言者ムハンマドの孫にあたるはイマーム・フセインは、西暦680年のカルバラーの戦いで、1万を超える軍勢に数十人で挑んだ英雄であり、殉教日にあたる今週は、町中に黒い旗が掲げられ、彼を悼む行進が行われています。
しかし、古いイスラム教のしきたりを拒むように、カラフルな衣装を纏った強い女性たちが闊歩する姿は、1年前のイランでは考えられなかった光景です。
ソ連の崩壊を予測したフランスの家族学者エマニュエル・トッドは、近代化を出生率から判断すると、中東の近代化には、脱宗教・世俗化という「西欧化の道」と、教義解釈の自由という「シーア派の道」の2つがあると述べています。
国父アタチュルク以来、世俗化を国是とし近代化を推し進めていたトルコが、反グローバリゼーションの流れの中でナショナリズムとイスラム回帰への動きが強まりながら、出生率がほとんど回復しないのにたいし、教義解釈の自由というシーア派の道をたどるイランが、トルコの出世率を上回った点に注目すべきだと語ります。
つまり、トッドは中東の未来を切り開くのは、欧米先進国から期待されるトルコではなくイランだと言うのです。
果たして、「あたらしい殉教者」と呼ばれるマフサ・アミニの死は、イランならぬ中東の大きな転換点となるのか?
この先の5年。
イランは、まったく別の国に変わるだろう、と街を堂々と歩くファッショナブルな女性たちを見て実感する今週です。
正直、信じられません!
(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.632』の冒頭部分です)
高城未来研究所「Future Report」
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。