スマートシティ実現と既得権益維持は両立するか

2023/05/22 08時32分公開 / 2023/05/19 13時45分更新

高城未来研究所【Future Report】Vol.622(5月19日)近況


今週は、福岡にいます。


主要駅、空港、港が5km圏内にあり、都市圏人口がおよそ250万人程度と理想的なサイズ感から、いつしか日本を代表するコンパクトシティと呼ばれるようになった福岡。


コンパクトシティとは、都市的土地利用の郊外への拡大を抑制すると同時に中心市街地の活性化が図られた、生活に必要な諸機能が近接した効率的で持続可能な都市、もしくはそれを目指した都市政策のことで、環境問題などの近代都市特有の問題から都市のあり方を再定義する過程で生まれた概念です。

今後、急速に人口が減少する日本では、地方インフラが維持できないことが懸念となり、首都圏に人が固まって生活する人口動態が予測されますが、そのサイズ感があらゆる面から検討されてきました。


米国ではニューアーバニズム、新都市主義、英国ではアーバンビレッジなどとも呼ばれ、自動車中心の郊外住宅開発に異を唱え、鉄道やバスなど公共交通を基本とした都市構造を目指す、21世紀の都市のあり方として世界中で議論されているのがコンパクトシティです。


しかし、福岡がコンパクトシティになったのは、政策による賜物でも偶然でもありません。

この背景には、福岡ならではの日本式システム「七社会」の存在がありました。


福岡の「七社会」とは、文字通り、7つの会社で構成されている非公式の任意団体で、政治や経済の領域で圧倒的な力を持っている組織です。

具体的には、九州電力、福岡銀行、西日本シティ銀行、西部ガス、西日本鉄道、九電工、JR九州の7社で、いまや福岡県のみならず、九州全体の政治・経済に圧倒的な影響を持っています。


例えば、交通インフラを握る西日本鉄道を見てみましょう。

福岡での移動手段は電車よりもバス(西鉄バス)のほうがメジャーで、あらゆる方面に路線が張り巡らされ、保有バス台数は約2800台と日本一を誇ります。

普段、福岡の路線バスに乗り慣れてないとバスが突然高速道路に入っていく異様な光景に驚きますが、実は西鉄バスは国の規制緩和を受けて、特例中の特例として都市高速での走行を許可されています。


この独占事業のバス交通網を壊させないため、日々数万人が訪れるドーム球場へのアクセスも地下鉄の乗り入れを絶対に許しません。

現在、博多駅からドーム球場最寄駅(唐人町)までの時間より、駅を降りてからドームに着くまでのほうが時間が長く、1キロ以上歩かなくてはならないことから多くの人たちはバスを利用します。

こうして、交通インフラが周辺に拡大することはなく、結果的に福岡はコンパクトに成らざるを得ないのです。


また、鉄道のハブとなる天神一帯を事実上独占する西鉄は、空港からの近さから航空法による高さ制限を受けるため、博多駅周辺と同様に見上げるような超高層ビルはありませんでした。


しかし、第2次安倍内閣が成長戦略の柱の一つとして掲げ、国家戦略特別区域法により容積率を最大で800%から1400%程度に緩和したため、現在、西鉄本社をはじめ50棟あまりものビルが建て替えが行われ、九州一の繁華街である天神の景観が今後一変します。

この福岡大改造(通称「天神ビッグバン」)も、基本的に七社会が多くの利権を握ります。


このように、福岡は古いシステムの力学によっていまも支配されている地域で、利権を守るために街の構造的変化を認めず、結果的にコンパクトシティという名の「ムラ社会」が出来上がりました。

移住者が多い福岡ですが、実は高齢層の転入が多く、若年層はむしろ転出が増えつつあります。

何しろスタートアップに適したオフィス・スペースがありません。


路線バスが幅を利かせているため、外に向けての街の拡大は望めず、街(と新規事業)はこれ以上大きくなることは無い、結果としてのコンパクトシティ。

デジタル・テクノロジーを活用して、都市インフラ・施設や運営業務等を最適化し、企業や生活者の利便性・快適性の向上を目指す「スマートシティ」へ果たして脱却できるのか。


ポテンシャリティと既得権の間に、福岡は大きく揺れていると感じる今週です。


(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.622』の冒頭部分です)


高城未来研究所「Future Report

高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


高城剛 プロフィール

1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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