気候が変われば、人が変わり、街が変わる

2026/10/12 08時30分公開
高城未来研究所【Future Report】Vol.799(2026年10月9日)近況
今週は、東京にいます。

暦の上では今週、寒露を迎えます。草木に冷たい露が降りはじめる頃、という意味ですが、まだまだその気配はありません。二十四節気はもともと中国内陸の気候を基にした暦のため、日本の実感とは多少ずれていたとはいえ、「天高く馬肥ゆる秋」という言葉は、かつての東京の秋にはきちんと当てはまっていました。

さて、現実はどうでしょうか?

僕が生まれた1964年の秋、東京オリンピックの開会式は10月10日に行われました。統計上10月前半はもっとも晴れる確率が高い週であり、実際、「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような」と実況されるほどの快晴でした。
それから半世紀あまり。2021年の東京大会は放送(CMスポンサー)の関係から真夏に開催し、マラソンと競歩は暑さのために札幌へ移されました。僕の一生分の時間で、東京の気候も、人と大企業の関係も、それだけ変わってしまったのです。

気象庁のデータでは、東京の年平均気温はこの百年でおよそ三度上がっています。これは世界平均の四倍近いペースで、地球温暖化に都市のヒートアイランドが重なった結果です。
三十度を超える真夏日は近年、年間九十日前後。一年の四分の一が真夏という計算になります。春と秋は年々短くなり、長い夏がようやく終わったかと思えば線状降水帯だ、史上最大級の台風だと騒がしく、気づけば冬の到来です。事実、四季の街と呼ばれた東京は、いつのまにか「二季の街」になりつつあります。

一般的に天気の話は、建物のエレベーターの中などで交わす、当たり障りのない雑談に過ぎませんでした。しかし、この時代の天気こそが人間にとって最大級の環境変数だと考えています。事実、先週からはじまったフランスの暴動も映画「Do the Right Thing」も、「街中の暑さ」が大暴動の原因なのです。

いったい、気候変動はどのようにして、人間にジワジワと悪影響を与えるのでしょうか?

まず身体です。気圧が下がると内耳のセンサーがそれを感知して自律神経が乱れ、頭痛やめまい、だるさが出る。「気象病」と呼ばれるようになったこの現象は、気圧の推移から頭痛の到来を予測できるほど、はっきりした相関を持っています。
熱帯夜は確実に睡眠を削り、温暖化によって人類はすでに年間数十時間の睡眠を失っているという試算もあります。ハーバード大学の研究では、冷房のない寮で猛暑を過ごした学生は反応速度が一割以上遅くなりました。朝からぼんやりしているのは怠けているからではなく、文字通り、暑さで脳の処理速度が落ちているのです。

次に心です。日照はセロトニンの分泌を左右し、曇天が続けば気分は確実に沈みます。北欧に冬季うつが多いのはよく知られていますが、面白いのは、天気が「判断」まで変えてしまうことです。米国の大学の入学審査を調べた研究では、曇りの日の審査官は志願者の学力を重視し、晴れの日は社交性を重視していました。しかも本人たちは、まったく自覚していません。

そして社会です。世界二十六カ所の株式市場を分析した有名な研究では、取引所のある街の朝が晴れている日は、株価の上昇率が高くなりました。気温が上がると個人間の暴力は約四パーセント、集団間の紛争は約十四パーセント増えるという分析もあります。
さらに、国の経済生産性は年平均気温が十三度前後でピークを打ち、それより暑くなると落ちていく。十三度とは、パリやニューヨークあたりの気温です。東京はすでに十七度前後ですから、暑くなればなるほど、この街は構造的に不利になっていき、「南国化」いわば、観光業へと向かわざるを得ません。

つまり天気は、僕たちの身体と気分と判断と生産性、そして安全までも、静かに動かしています。それなのに、不調の原因を意志の弱さに求め、仕事が進まなければ自分を責め、気分が沈めば心の問題だと思い込みます。天気のせいにしてはいけない、とお考えかもしれませんが、天気を人生の主要変数として、正面から設計に組み込むべきなのです。

驚くことに、懇意の産業医の話を聞くと主にメンタル不調で休職願を出す人が、昨年比で3倍以上まで急増しているとのこと。インフレによる生活苦や食事の問題もあるでしょうが、気候が人々に与えている悪影響は、いよいよ無視できないレベルに達してきたのが伺える話です。

先月の東京は、都心で36日連続の雨を観測して統計史上最長を更新しました。

気候が変われば、人が変わり、街が変わります。
渋谷西武閉店は、その節目のように感じる今週です。

(これはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」Vol.799』の冒頭部分です)


高城未来研究所「Future Report」
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛 プロフィール
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。
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