民間の「ロビー活動」代行企業への苦情がよく聞こえてくる

2023/06/06 12時53分公開

 最近、霞が関を若くして辞める方が大手企業だけでなくベンチャー企業や中堅急成長企業に入り、そこで「渉外」とか「公共部門営業」などの部門の名刺を持っておられ、出入り先で良く遭遇します。

 個人的には、霞が関に10年以上在籍し続けた人は、仮にキャリアの途中で海外大学のプログラムで研鑽を積まれたり、官民人事交流などで民間企業に在籍した経験のある方でも背番号の問題から霞が関の流儀が抜けず、そこから民間企業に転籍されて実務についていけずあちゃーとなる傾向が強いように感じます。もちろん私のレーダーの範囲内しか見えておりませんので、ひょっとしたら立派に活躍して社業の利益に貢献したり、未然に良からぬ取り組みを防いで組織防衛されたりしている方もおられるのかもしれませんが。

 で、昨今凄く話題になっているのはこの「元」霞ヶ関の人がかなり平気でやる情報漏洩です。昔はこういうのは入札情報などの利益に直結する情報が流出して騒ぎになるケースが多かったのですが、最近では役人人事に始まり検討している法案の具体的な中身(それも本線で検討しているもの)、果ては特定の政策分野で協力している民間人リストなど、結構痺れるものが流出しているように見受けられます。

 それも、そのようなことをやらかすのはたいていにおいて成果を出すことをコミットさせられている、霞が関出入りの大手コンサルタント会社がほとんど裸単騎で情報を取りに来て「お前さあ」となるのが常でしたが、最近では入省数年で見切りをつけて民間に転出したけど基本動作が良く分かってないまま現場に出された動員兵みたいな人たちが関係部門未承認の議事録まで流出させたりして騒ぎになります。

 個人的にそういうのは本当に大変なことだと思うのと、特に民間企業の協力者の実名については取り返しがつかない問題を引き起こす可能性があるので役所の側も送り出す企業側も強く留意したほうがいいと思うんですよ。というのも、例えば犯罪収益移転関連で金融庁に出入りしている人が、単に金融庁からすれば情報提供をここから受ける可能性がある、という、未遂でタッチもしていない企業や人物に対して語ったメモが、実はすでに当局へ情報提供をしたキーマンであったかのように情報流通してしまったらどうなるでしょうか。あるいは、京都市での土地取引で、これから検討する中国人ファンドへの売却を企図して提案をしようと思っている書類が京都市から出て、あいつはそういうことをしようとしている輩だと指弾されたもののそれは単に名前を出されただけだった、みたいな。

 企業や本人に心当たりのない提案が、さも実際にあったかのように省庁のラベル付きで話が出回る一件では、役所の中で厳秘となっているはずの未遂のものやこれから調整しようと思っている先なども一緒くたに扱われて「あそこの企業が危ない」などの情報として流通することは特に危険だし、それを政策ロビーを自称するような企業や、当該分野で官庁に出入りする企業、そしてそれらの窓口を担う元官僚が早とちりか意識的にか誤認して、価値のある当事者情報だと漏洩させるのはさすがに問題であろうと思うわけです。

 卑近な例では、東大阪市の朝鮮学校敷地の売却の件で、東京都江東区のフィグラ社なる芸能事務所が無資格で売却先のアレンジをしようとして問題になり、さらに3月下旬に売却のための中間金約20億円の捻出ができず朝鮮総連との覚書も履行できなくなってその後有耶無耶になるという事件が起きました。経緯については、元文春の赤石晋一郎さんと甚野博則さんが一部youtubeで語っておられます。朝鮮総連筋が資金調達を目的として保有資産である朝鮮学校の土地を売却する動きがあることは、当局筋でも知られた話ではあって、合法である限り問題はないのですが、北朝鮮が国を挙げて核開発、ミサイルの発射実験や偵察衛星の打ち上げなども昨今派手にやらかしているその金主が日本のこのような経済活動にあるのだとするならば、みんな興味津々でヲチするのもまた当然のことです。

No.82 朝鮮学校が怪しすぎる企業に謎の売却 https://youtu.be/mR7hWbbPjX0

 ところが、その後この決済で朝鮮総連側が上場企業で渉外担当の名刺を持つ官公庁OB経由で朝鮮学校土地譲渡の譲渡先探しをしており、途中で「朝鮮学校跡地の東大阪で、建設総額100億円のデータセンターを設置する」という話に振り替わっていきました。そこで「くすのきディベロップメント合同会社の宮本修治」を名乗る人物が実在する上場企業K社のリードで土地取引を進めているのでブリッジローン(つなぎ融資)や共同投資を促す連絡をほうぼうに取り回すようになります。

 結局、大阪地裁が即日和解で4月21日に買い手をネオズアセット社に変更する形となりました。このネオズアセット社自体は沖縄を本拠地にする不動産会社の子会社で、このハコ自体は身綺麗に見えるんですが表からの取材は拒否。ただ代表の杉原明さんは六本木ヒルズ方面では割と著名な人で、いま聴こえてきている話が事実ならばまともそうなところに流れていって良かったなと思うところであります。

https://www.future-asset.jp/

 で、一連の事情について広く情報が出回る過程で問題となる人物が、元金融当局の担当で民間企業に転出したという触れ込みのN氏であって、上記くすのきインベストメント社を経由して金融ブローカーに朝鮮学校の土地の価格を吊り上げ転売しようと目論んだのも、実態が定かではないK社のデータセンター設置計画について話を取り回したのもこの辺が振り出しと見られます。

 この人脈を追っていくと、兵庫県のすでに経営破綻して権利が譲渡されているメガソーラー事業者や、コロナ治療薬詐欺に絡んでインサイダー取引の嫌疑で逮捕・起訴されて有罪判決を受けた建設会社社長に繋がるベンチャー投資界隈の人脈に繋がっていきます。まだ未確定ですが、日本で過去に暗号資産取引業者に関係者を送り込んでバックドアを作った関係者とのつながりがあるとか、さまざまな風評が出ては消えるのもこの方面の問題の興味深いところです。

コロナ薬開発巡るインサイダー取引容疑で逮捕者続出!医療ベンチャー「テラ」騒動 | 医薬経済ONLINE発 | ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/298320

 裏を返すと、こういう儲けのネタを仕込む窓口として官公庁の情報が使われるにあたり、民間企業で元官僚という経歴から渉外担当経由で未確定だけど重要な情報を引っ張ってきたり、北朝鮮絡みなど際どいネタをベンチャー企業の肩書で覆い隠して何かを試みようとしたり、比較的品がないやり方だなあとは思います。それもこれも、いまの日本ではこの手の問題を捌くためのアンチマネーロンダリングの黒リストをまだきちんと作れておらず、かなり適当にかつ曖昧に反社会的勢力の認定をしていることも背景にあって、当局が確たる証拠もない中で出入りしているコンサルや渉外担当が「こいつがヤバいらしい」と雑に認定を進めた結果、民間の反社リスト作成業者が裏付けもしないまま特定人物を反社だと認定してしまうわけですよ。

 ごく最近では、大手自動車メーカー系列の自動車販売会社の現役役員や、大手ゲーム会社の元経営者でベンチャー企業役員を務める人物などが、明らかに誤った情報を根拠に反社リスト入りさせたりする一方、明らかにおかしい株主が含まれたままの企業を上場承認してしまう当局のガバガバ感も強く覚えます。

東京ガールズコレクションのW TOKYO、何かとクセが強い沿革と大株主の逆風をはねのけ上場まで漕ぎ着ける

https://kabumatome.doorblog.jp/archives/66008812.html

 全体で見ると、やはり「これは駄目でしょう」という話がなかなか組織内のコンセンサスにならないうちに話が進んでしまって取り返しのつかないことになったり、元霞ヶ関だからといって役所が独占している重要な情報に触らせないことや、ロビー活動を正面から受け取ってしまって業界団体の圧力ありきで各種制度審議が進む現状についてはもう少し是正しないとよろしくないのだろうなあ、北朝鮮や反社の皆さんほか問題のありそうなところに食い込まれるんだろうなあと思います。

 通り一遍の反社チェックでは駄目で、より具体的に、こういう人物とつながりがあるからヲチするぞといった定点観測をしつつ、クリアランスとは違った意味で情報を出す出さないの峻別をしないと大変なことになるぞという雰囲気は強くします。

 そういうことですので、よろしくお願い申し上げます。


 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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