先読み自慢の実績あるジジイどもがほぼ全員盛大に読み違えている件について

2025/09/03 00時41分公開

 大変なことになっているわけですが、基本的には「党則6条4項で議員・都道府県連の合計の過半数から請求があったら開催できるという謎の総裁選」を使ったことがいままでなかったので、原則としてほぼ実質総裁のリコールに近いこの規程をそのまま使って総裁選されたら現職総裁(=石破茂さん)はかなり高い確率で退陣を余儀なくされることになります。

 なので、そうなったら本当に降ろされかねないし、7月28日(当初は7月31日開催を予定していた)の「両院懇談会」に向けて「この6条総裁選をやるやら決めのための両院総会の開催」を議論するとなったとき、私としては総理続投と責任の取り方についてのご説明を充分になさったうえで、総裁や近しい人物で手分けして「続投に向けての(改造人事や政策、臨時国会での補正予算がある場合はその中身の案など)総裁のお考え」を周知されたほうが良いとお伝えしていました。メールを見返すと7月25日から27日1時(にちようび)までみっちり打診を掛けていたわけで、我ながら仕事熱心だなと思います。はっはっは。

 折しも担当大臣として日米関税交渉にあたっていた赤沢亮正さんが7月21日に2時間以上にわたってラトニック米商務長官と協議し、米東部時間22日午後(日本時間23日午前)にホワイトハウスに入って米大統領のトランプさんと面談し関税交渉を成立させ「任務完了」していたことで、敗北した参院選の投開票日7月20日に間に合わなかったのが残念とはいえかかる問題については大金星を挙げていたところでした。

 外交日程もありつつ、日本にとって最重要相手国であるアメリカとの関係では一定以上の成功・成果を収めたことで、次なる課題は国内問題となり、物価高対策に加えて社会保障の問題に「石破茂政権だから取り組めること」を軸に党内の理解を得て続投の段取りを踏まえていくことは大事ですよねという話は偉い人も各所もご了解を戴いて乗り切っていく話、だったはずでした。

 ところが、弛緩したわけではないとは思いますがお盆休みを挟んで80年談話やるやらや外交日程その他も立て込む中で謎のお休み期間ができてしまい、後になって話がそこまで進んでいないことを知って「え、どうなってるの」と聞き直してしまうほどアレな感じでした。忙しくしていて頑張っていればみんなついてきてくれるだろう的な話を伝え聞いたときは膝から崩れ落ちましたが、案の定、それではどうにもならずに9月に入っちゃったわけであります。

 奇しくも、この流れは21年12月2日、石破派水月会で、将来を嘱望された田村憲久、斎藤健、後藤田正純、山下貴司各先生がまさに現総裁・石破茂さんを見限って蹴り出た推移と極めて酷似しております。違いと言えば、政権与党の非主流派で冷や飯をかこつ議員集団での顛末なのか、国民有権者の未来を左右する政府中枢と与党内で起きる事案なのかに尽きます。

 他方で、永田町の流儀に詳しい人たち、特に長老は「石破茂の何たるか」をあまりよく知りません。安倍晋三さんに愛されず冷遇された派閥の長である石破さんを最後まで気にかけてくれた領袖のひとりが森山裕さんであり、石破さんが森山さんに恩義を感じてきた理由もあまり理解されていないので、彼らの解説を聴くと「森山さんが地位にしがみついている」とか「石破さんは森山さんに任せきりで自分では何もできないから外すに外せない状態になっている」などという内容になってしまうのです。

 とりわけ「普通なら恥ずかしくてとっくに総裁辞任しているはず」と考える長老にとっては、石破茂さんという人物の人柄を理解できない面があるのでしょう。防衛族の人たちの間では、石破茂さんは単なる兵隊の気持ちをミリも理解できていない軍ヲタだという評価になっていますが、石破茂さんという人は貸し借り恩義を大事にし、原理原則にこだわり、それでいて人と親しく交わることをしない、およそ日本政治の宰相像からすると遠すぎて理解不能な面が強くあります。

 その点で、ご自身から動くということはまずなく、明確にご判断を下すことも多くはありません。決まった工程表の報告を受けて「ん。」「ん。」とお聞き届けになり、物事が進んでいく感じなので、いわば「担がれ待ち」なのが特徴なのです。なので、長老が人を集めて会議をし、偉い人が「もう石破さんは自ら降りる判断をされるだろう」「今週にはご決断されるはずだ」と見通しをお示しになられても、当の石破茂さんは慌てることなくおひとりで静かに蕎麦喰ってたりするわけで、そういう人なのでムラの人たちの理解を超えているために真意が理解できないという運びになります。

 この「状況があまりよくなく悩んだり焦ったりする面はあるかもしれないけど、淡々と仕事をする石破茂」というのはキリスト教徒が神から与えられし試練を乗り越えようとしている心象を理解しないと読み切れないものなんじゃないかと思うんですよ。政治の中枢を王道で歩んできたような陽キャが総理総裁に求める男らしさとは無縁の世界とも言えます。

 いわば「こうしたのでご判断ください」では駄目で、実際には「こういう運びなのでこう判断しました」という持ち上げ方以外に成立しないので、特に総裁選前倒しやるやらのような機微の話を総裁に「どうしますか」とか聞いてもお言葉を戴けないし、読みもみんな外れます。いわゆる権力闘争にならない。しがみついている、って感覚もないんじゃないですかね。

 

Powered by Froala Editor

 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

コメント