世帯所得のある女性全般と40代以上の男性は、あまり参政党に騙されない

2025/07/10 14時38分公開

 参政党の躍進は最初「ちょっと前のれいわ新選組みたいだな」と思っていて、継続的に取っているまあまあ大きいサイズのパネルやグループヒヤリングの結果で見る限り、確かにれいわ新選組を支持していた男性は3割近くが今回の参院選では参政党支持に鞍替えをしています。

 ここはもともと既存政党に対して批判的で、世帯所得が低く、政治的関心が中程度かそれ以下の層なので、何をしても自由民主党には投票しない人たちですから、与党にとって、あんまりダメージにはなりません。公明党はちょっとわかりませんが。

 で、参政党の主張がどこに刺さっているのかというと、20代、30代と44歳ぐらいまでの男性の、低所得者層です。主に都市部の支持だったのですが、最近は、参政党代表の神谷宗弊さんが地上波テレビの報道番組にも出演するようになったため、やはり低所得者層の中高年男女にも少し支持層が増えてきています。

 キーワードは低所得者層で政治的関心が低めの層が「騙されて」参政党に投票する傾向なんだろうと思いますが、振り返って過去の投票動向を見ると、サンプル数不足ながら3年前にNHK党ガーシーさんに、昨年の都議選は石丸伸二さんに投票している層と被っている感じがします。ミクロの世界なので、全国4,000件ほどのパネルだとよく分かんないんですよね。

 投票の傾向としては、既存政党に入れても自分の生活はよくならないと感じている人たちが支持層なのですが、自民党支持層の保守傾向のある人や、立憲民主党支持層でも2割弱が参政党に流れています。驚くことに、公明党支持層も2割弱が参政党に流れているので、これはもう生活苦からの既存政党忌避で受け皿を探した結果、「じゃない方」を選んで参政党に「騙されに行っている」とも言えます。

 他方、低所得層でも女性は顕著に分かれていて、未婚世帯の女性(おひとりさま)は立憲民主党や公明党、れいわ新選組を見捨てて参政党に投票しています。逆に、同じ低所得でも女性と扶養家族の構成となっている世帯(おそらくその大半は母子家庭・シングルマザー世帯)は、引き続き自由民主党、立憲民主党、公明党を支持しています。ここら辺や、育児世帯の何割かはいま現実に社会保障で与党や立憲民主党の政策・国会論戦で受益している層なので、出生手当、子ども教育関連の手厚い政策に対して支持をしている図式です。

 自由民主党に関しては、世論調査の数字だけ見ると高齢者が支持している政党と見られていますが、安倍晋三政権後期から菅義偉、岸田文雄両総裁を経て石破茂さんに至るまで、基本的には「社会保障・年金を守る姿勢」で支持を繋ぎ止めているのであって、日本維新の会や国民民主党、参政党を支持すると自分たちの生きるよすがであり糧である社会保障費を大幅に減らされるという世代間対立を敏感に感じ取って自民党支持をしていると見ることができます。高齢者でも「次の世代を応援するために教育や子育て施策に予算を投じるべきだ」と考えてくれている有権者が4割以上いることも見逃せません。責任与党として、すべての国民に等しく豊かな生活を維持できるよう頑張っているのはご評価いただいているなかで、外国人問題がにわかに争点に上がってきたので「やるべきことはちゃんとやってきたし、これからもちゃんとやるのだ」という話は繰り返しお訴えをして行くしかないのかなと思っているところです。

 自由民主党から剥がれた保守派は、日本維新の会へ支持が流れ(22年にかけて)、その後、国民民主党を経て参政党に約4割が鞍替えをしています。支持率で見て全国民の4%弱ですが、その半分以上が先にも述べた通り低所得・未婚の20代30代と44歳ぐらいまでの男性です。社会的に置き去りになっている層であり、既存政治を恨んでいて新興勢力に載りやすい層ですから、安倍晋三さんが亡きいま、自由民主党をまた熱烈に支持することはもうないのかもしれません。

 これらが国民民主党を経て参政党に移動したため、基本的には小さな政府、減税の名を借りたバラマキを求めていて、彼らは自分たちが社会保障のお世話になっている側であるにもかかわらず、税負担しているつもりになっていて減税を求めているんですが、直接の納税はあまりしておらず、担税もほぼ行っていない層です。とはいえ民主主義的には貴重な一票ですから、彼らが最低限、納得できるような政策を提示する必要はあるのでしょう。

 他方で、所得は無関係に女性はあまり参政党支持に流れないことを考えると、安全保障重視で強い日本を目指すタイプの政策目標は男性向け施策であることは間違いありません。女性が安全保障に興味がないということではなくて、投票性向としてみるならば、女性は家庭を持つほどに中長期的に安定した政治を行える政党・候補者を志向する傾向が強いという意味になるかと思います。

 最後に、都市部と地方の関係では、今回の参議院選挙ではコメ価格高騰と、日米関税交渉でトランプ政権が(トランプさん自身の無知もあって)自動車と農産品・特にコメの関税にこだわったことから、一般的な物価高対策の文脈とは別にコメを含む日本人のDNA的に譲れない何かをどうするかという話になっています。パネルでは唯一と言っていいほど与党支持の理由になっていて(石破茂政権の方針を支持する・どちらかというと指示するの合計が66%)、言い換えるならば、日本人は物価高で苦しいけどコメだけは死守してくれている石破茂さん支持というのが2割以上いるということになります。しかも、投票の際に重視する政策の上位にいますので、やっぱり農業国コメどころニッポンで生きてきた私たちに刻み込まれた遺伝子がコメ高騰と聴いて命の危険を感じてしまうほどの理屈ではない何かがあるんじゃないかと思っています。

 現状で、自由民主党は複数人区は千葉が2議席目陥落、北海道も2議席目が極めて危険の状態で13議席、1人区も優勢がわずか7から9議席で取れて12議席、比例代表が現有18議席から大幅に減らして11議席から12議席の見込みで、多くの仲間を失ってしまう危機に瀕しています。ヤベエことだと思いますが、こちらとしても半年以上前から対策を打とうとしてきたもののなかなかうまく運べなかったことを考えると反省もありつつ最後まで戦っていこうという気持ちしかありません。悲観的に見て36議席から38議席の間で着地してしまうと、公明党さんが小選挙区で崩れれば与党で非改選含め過半数をボーダーとした獲得50議席の目標に対して44議席から47議席程度に留まってしまう恐れがあります。公明党さん、どうか、踏ん張ってくれというのが本音です。いままでさんざん迷惑かけておいて、苦しくなったらケツを叩くのは申し訳ないの一語です。なんとか埼玉神奈川愛知大阪の各選挙区、新妻秀規さん他大事な候補者をもう一度、国会に送り出していただきたいと願うところです。

 いろいろ起きておりますが、最後まで可能な限りのことを進めて投開票日を迎え、いろんな意味で納得のいく(納得せざるを得ない)結果となるよう頑張ってまいりたいと考えています。暑い日々が続いておりますが、期日前投票もございますので、どうか現在と未来に向けて価値のあると思える候補者・政党への一票を投じていただきたいと願っております。


 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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