結局、本当に大事なことには生成AIは使えない

2025/05/29 16時37分公開

 たくさん議連が立ち上がり、大量の調査会や各党研究会・ワーキンググループでも各種政策に関する議論が活発になってきました。国民の大半が嫌っている国会議員や各党スタッフの皆さん、優秀で勤勉な人が多いことは知られていいと思うんですよ。よく勉強されているし、しっかりと意見をお持ちの方が多いのは事実です。そういう議員の皆さまこそ、国民・社会にとって宝だと思います。そうでない人もいるけど。

 で、そのようなお席が増えるということは、議員の皆さんが国民生活を良くするためにと考えて、いろんな問題意識をお持ちになり、政府・各省庁に対して「この情報を出せ」「あれはどうなっているんだ」と思料を取りまとめて送ってこいという話が出てまいります。もちろん、それに対応する義務を負っているのが行政ですから、なんとなれば徹夜してでも国会質疑やこれら研究会・議連報告、政党・議員レクとして資料を揃えるのは当然ではあります。

 ところが、昨今議員の側が、事務所スタッフを使って資料作りをするにあたり、生成AIを駆使されるケースが少なくなくなっています。まあ、便利ですしな。使うのはいいんですよ、ええ。使えるものは使いましょう。ただ、その結果、なんか問題が起きるとその日のうちに「これが知りたいから資料整理してもってこい」というオーダーが乱舞し始めることになりました。

 これ、各省庁ご担当が、課長クラスで承知している物事の延長線にある物事であれば、過去の話を整理してもっていくことはそれなりの労力はかかるにせよ不可能ではありません。しかしですな、例えば「最近外国人が日本のマンションを買っていて市場で中古マンション相場も都心中心に上がっており、まともな日本人が30年二馬力で働いて借金しても買えない社会構造になっている、こりゃどういうことだ、現状を調べろ」みたいな話がドーンと各党から押し寄せるようになります。

 これは国土交通省だろ、いや総務省だろという押し引きの果てに、霞が関のどこをひっくり返してもそんなデータはもってない、調査は特にしていない、何となれば合同会社が登記をしていて日本人なんだかシンガポールにある中国人系ファンドなのかも金主が分からない、なんてことが起きる。これ、まともに調べるとある程度ノウハウのある人でも二か月三か月かかるよって話で、当然担当する部門の官僚は知らない話です。

 そこで「いや、データがないのでわかりません」と折り返してくれれば一件落着… にはならず、何でお前ら知らんねんみたいな反応になってしまうわけですよ。こんなに国民生活が苦しめられているのに行政はなにをやっているんだ、と。要するに「知らない」「分かりません」ってのは情報を扱う側からすればむしろ最高級の回答であるにもかかわらず、いまの行政においては「知らない」ことが許されない雰囲気になるのです。

 結果的に、ゴーイングコンサーンでいままで分かっていなかった話を外にヒヤリングして取りまとめる、という暴挙をせざるを得ません。端的に言えば、不動産管理をしている大手企業やデベ、不動産調査会社などに問い合わせて「こんな話、おんどれのところ分かるんかいな」と訊いて回るわけです。でも、実際にはそんな詳細なんて分かりっこないわけですよ。だって、そういうことが分からないようにするために、わざわざGK-TKスキームと海外ファンドの仕組みを使って金主が誰だか分からないように、手配しているんですから。

 そこで「分からないよ」となると、よろず情報窓口としてのコンサル会社やシンクタンクが駆り出されてきて「これこれの話が必要だから推計ぐらい出してくれや」となります。当然、そういうところの窓口になる偉い人ってのは現場の調査なんてほとんどやったことなんてないんだから、結局は話が返ってきて調査ノウハウを持つ御庭番の出番になってしまうわけです。

 つまりは、生成AIによって質問する側の効率は上がって質問するスピードは上がったけど、その質問に答えるには実地の調査がどうしても必要だから大量の工数がかかってアイドリングし、その間、質問する先生方はずっと待たされることになるので「あいつは仕事が遅い」とか「要望が分かってない」とか「調査方の質とレベルが下がっている」などの罵声まで飛んでくることになるんです。

 まあ文句を言われるのも仕事のうちと諦めておりますが、ただこのご時世、そういうスキルを持つ人を雇ってくるコストも上がってきていて、調査そのものもプロジェクト化せざるを得ないぐらい大きい規模のものになるので常に大量の案件を抱えて超忙しくなります。んで、報告書に取りまとめるぞとかいう段取りになればローカルLLMでも組んで多少は効率的に対応できることはあるけれど、その元データとなる生の数字や登録・登記情報ってのはなんだかんだ機械任せには絶対できないので人力である以上毎日寝落ちするまでが勤務時間という働き方を強いられます。

 突き詰めれば、データ化されていないから霞が関が把握できず実態不明で社会問題化しているものは、在留外国人の国民健康保険未納といい外国人の消費税負担問題といい「尋ねれば応えられる」性質のものではありません。「お前ら答えられないのか」と騒ぐ野党議員の皆さまが過去に外国人マイナンバー適用に反対していたり、個人情報保護法の問題があるからとトレースをさせない運動をしていたり、政府が対策を採れないような仕組みにしておきながら対策に必要な情報がないと騒いでいる印象です。

 で、適当にでっち上げるシンクタンクがいるらしいんですが、それってかつて総務省さんで統計不正とか言われた改竄なんかをやらかしたメンタリティとあんまり変わらないわけで、結局、いちから真面目に調べられる人足とノウハウを持った集団は各省庁にしっかり温存させておかないと大変なことになるんじゃないかという気もしないでもありません。


 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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