The US - Japan Ally Forever

2025/04/09 14時38分公開 / 2025/04/09 14時39分更新

 現場としても、日本人としても、共通の価値観と信頼関係に基づくアメリカとの強固な同盟関係の維持が、日本にとって最大の国益であり安全保障の基本だと考えております。

 安全保障があってこそ、非資源国である日本が貿易や金融も含めた繁栄を享受することができるのであって、日本が単独でシーレーンを含めた世界的な安全保障の体系を担い切ることはどできません。そうである以上、アメリカとの同盟関係を軸に、オーストラリアや台湾、フィリピンほかASEAN諸国および韓国との良好な関係を元に、日本の安全と繁栄を堅持し持続させることができるわけです。

 翻って、アメリカ大統領に就任したトランプさんの各種方針については、これらの大前提となっているアメリカとの同盟関係を支える「信頼」、その基本となっている「共通の価値観」が揺らいでしまうことを意味し、日本が悪い意味で依存し切っていた安定した日米関係による同盟というプランAが流動化し、対中国以上に予見可能性が低いよということになると、これはさすがに問題となるわけです。

 「共通の価値観」は、いわゆる普遍的価値である人権や民主主義といった社会基盤の根っこのところだけでなく、私たちは子どものころからディズニー映画を観て、プロ野球やアメフト、バスケットを観戦し、コーラを飲み、マクドナルドを食べ、AppleやGoogleの製品やサービスを使い、ボーイングに乗って移動するという、生活に息づいているアメリカも含みます。

 アメリカ国民から見て「日本など価値はないのだ。用済みだ」という判断にまで至っているというわけではないが、高度な信頼関係を元に、何となれば、肩を並べて一緒に血を流したり、秘密を共有して大きな判断を共に行ったり、という無条件の協調が図ることができなくなるならば、我が国が取り組んでいる半導体関連政策も航空宇宙も含めた経済安全保障のようなブロック経済前夜の枠組みも崩れてしまいかねません。

 旧秩序が良かったのだ、新しい世界のルールへの扉を開きたくないのだという情緒的な話はさておき、事態がこうなってしまっている以上、日本の役割も大きく変わっていきます。いろいろあったけど、強大な世界帝国アメリカからの庇護があることを前提条件とできなくなったいま、もちろん引き続きアメリカとは友邦ではあるけれど日本もまた危機に対応して生まれ変わらなければならない必要に迫られていくでしょう。

 それまでは、ある程度、トップが緩くても日本の舵取りはより大きな力に依存しながら制御可能な変数の中でだけ少しいじればどうにかなってきました。例えば、日韓関係も、直接の日韓同盟は無くとも強大な在韓米軍を有するアメリカとやじろべえ構造の両側に日本と韓国があってそれで良しとされてきたのです。これは、核保有国にならんとす対北朝鮮の問題だけでなく、韓国もまた日本と共通の価値観を有し、お互い約束を守る真面目な国民性だからこそ、多少の事件・事故はあっても相互に話し合いを誠実に重ねる中でどうにかなってきたのは、やっぱりなんだかんだ話し合えるチャネルがちゃんとあり、価値観が合い、相互に依存できる社会・経済体制があったからと言えます。

 ところが、東アジアの安全保障に対してアメリカはコミットしないかもしれませんよ、という暗黙の信頼がガッツリ揺らいでしまうと、朝鮮半島はどうするんだ、台湾海峡はどうだ、南シナ海は、尖閣諸島は、北方領土や日本海・オホーツク海は、といった波状的な守備範囲の拡大を強いられ、そこには大事な海底ケーブルやシーレーン、航空宇宙の情報網といった、日本が大事にするリソースが危機に晒されても対応できないかもしれないよというジレンマに繋がっていきます。

 そこで、アメリカがロシアと頭越しにビジネス的な交渉をし、祖国を守るために文字通り血を流し続けてきたウクライナに対する支援が停まり、結果的にロシアのウクライナ一部併合が力による現状変更を暗黙に認める形で成立してしまうと、世界の新秩序は大国による中堅国以下の併合も可能とする世界観に陥っていきますから、当然のことながら、中国・習近平体制による台湾侵攻だってそんなに確率の低いことではなくなる恐れもあります。その場合、援軍に来ないかもしれないアメリカに信頼を寄せて、周辺事態ですからと日本が台湾を守るような行動がとれるのか、あるいは、台湾に在留している邦人1万4,000人、さらには中国にいる日本人10万1,700人の生命や財産をどう守り、日本に避難せしめるのかという話になってきます。

 今回、石破茂政権が直面している対アメリカ外交の最前線とはすなわちそういう話の入り口なのであって、これは大丈夫なのかと言われても誰もそれに対する解答は持っていないのです。むしろ、いま問われているのは「アメリカをどうするか」という対処法ではなく「日本をどうしたいと思っているのか」という政見・哲学のところにあるんだよというのは理解しておかなければなりません。

【詳細解説】石破茂総理がトランプ大統領と電話会談をした件について 株価暴落/トランプ関税/日経平均/バラマキ/消費税減税

https://www.youtube.com/watch?v=EavfWIfmq98

 今回のトランプさんの施策が日本も巻き込む「平和の終わり」だとするならば、新たな平和に向けての環境構築に日本がどのような役割を担い、それを実施に漕ぎ着けるのかというかなり根幹のところで物事を考え直さなければならなくなります。もちろん、トランプ政権が経済に与える影響は一過性のものかもしれません。しかしながら、国家対国家の信頼関係という点では、たかが三か月という非常に短期間の政策決定でありながら、これだけ揺らいでしまうものなのだということは白日の下に晒されてしまったのも事実です。

 そうなると、どうしても一足飛びに「日本も核武装するべき」とか「アジアで新たな安全保障体系を」などの議論も飛び出してくるわけですが、肝心のアメリカとの関係の中で信頼構築にそれこそ80年間かけてきて、壊れるのは三か月だったことも踏まえるならば、日本がこれからアジア諸国の安全保障の盟主になり、例えば中国海軍・海警とASEAN諸国の権益のために日本人の血を流すのかといった議論も当然ながらしていかなければならなくなります。割と約束をちゃんと守ってくれるアメリカ人との間ですら信頼関係を築くのに長い時間がかかったのに対し、東南アジアの国々とこれからそういう相互関係を築けるだけの交渉を積み重ねていくんですかというリアルなところはちゃんと考えないといけないと思うんですよ。

 情報部門については、まあいろいろありますがアメリカというのはやはりそれなりに仕組みが整っていて、トランプさんを上に戴こうとも愛国心に溢れたアメリカ人があれこれ政府保護を外されても国のために頑張るという人が大勢だと思いますし、そこは引き続きの信頼関係をもって日米と関係国とでやっていくことは揺るぎなくやっていくことでしょう。他方で、いつまでも他国の情報機関から提供された内容を元に何かをやり続けるというのは互恵的な関係の構築という点からも悩ましい面はあるでしょうし、いずれ、日本独自の情報機関も世界標準に近しい形でやっていかなければならないし、法整備やサイバー方面の対応なども踏まえて積み上げていく必要が出てきます。

 そういうことも踏まえて、新たなる日本の扉をどう開くのか、どういう方向に歩んでいくのかもきちんと模索したうえで、今後も引き続き日米関係を強固に維持していくため努力を重ねていき、日本は日本に与えられた役割を全うする、というふうに考えるほかないのではないかなと思います。


#日米関係 #トランプ政権 #石破茂 #安全保障 #台湾海峡
 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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