自由民主党総裁選と「ビジネス右翼」の問題について

2024/09/02 15時34分公開

 時事通信さんがこんな記事を出しておられ、少し違和感を持ちつつもまあそんなもんかなというところなのですが。

総裁選、自民保守派が「分裂」 安倍氏死去で指導者不在:時事ドットコム https://www.jiji.com/jc/article?k=2024082901062

 確かに前回高市早苗さんの推薦人にも回っていた小林鷹之さんが早期に出馬への意向を示し、防衛省三役経験者を中心に小林さん支持を打ち出していたのは印象的でした。他方で、聞き及ぶ限り安倍晋三政権から岸田文雄政権にかけて重要な役割を担った政治家の何人かが、小林鷹之さんでも小泉進次郎さんでもなく林芳正さんや齋藤健さんの支援に裏で回っているのも印象的な構図です。

 これらの状況を見ると、派閥は解散しカネのかからない総裁選と標榜しながらも、なんだかんだ重鎮や長老の意向を受けて集合離散する自由民主党の各議員が、政策勉強会や総裁選推薦人集めという過渡的な状況を経て再び新しい派閥的な集合体に再編成されていく途上にあるのではないか、と考えられます。

 また、いわゆる政治姿勢における保守派(民族右派)やリベラルという政治かを分別するレッテルは、実は政治的主義主張で同志意識を持つ連合体になっているというよりは、そういう票田で有権者を集めるための選挙互助会の看板という意味合いになっているように見えます。高市早苗さんにしても小林鷹之さんにしても、あるいは後ろ盾として奔走している武田良太さんから萩生田光一さんにいたるまで、どなたも民族右派としてのハコとして機能してきた日本会議に名前を連ねる議員さんでもあります。

 しかしながら、では日本会議がかつてのように選挙互助会として民族右派を動員できる力が残っているのかと言われれば微妙で、せいぜいイベントで熱量高く中高年男性を集めて気勢を上げるぐらいのことしかできず、その世話役は高市早苗さんにあたっては山田宏さんのようなビジネス右翼とも言える人物であることを考えれば「たいした勢力ではない」と言えるでしょう。

 自民党総裁選においては、高市早苗さんは自民党党員票でこれらの民族右派党員票はまあまあかき集められると思います。ただ、前述の通り小林鷹之さんと貴重な党員票を割ってしまうと、小泉進次郎さんが進出を確実なものにしている決選投票に高市さんも小林さんも残れず共倒れする可能性が高くなります。本来であれば、小林鷹之さんに一本化して高市早苗さんが身を退いて小林陣営の陰ながらの応援に回るしか民族右派にとって最適解はないのですが、総裁選に自分が出たい、可能性がわずかでもあるのなら賭けたいという意識しかないと案の定、無事共倒れになるのではないかなと思います。

 なお、メルマガ『人間迷路』でも少し書きましたが、高市早苗さんが失ったのは安倍晋三さんの後ろ盾だったというよりは、やはり奈良県知事選での不始末で奈良県連ほか自民党関係先からの声望が地に堕ちたことによるものです。経過を聞いていた私でさえ、あの高市早苗さんの仕切りはあり得ないだろうという認識しか持ちませんでした。一口で言えば無能だろうと思うので、これらの話を知っているマスコミ関係は高市さんのために高市さんを推さないのも分かる気がします。

『人間迷路』

https://yakan-hiko.com/kirik.html

 正直この辺はもうどうしようもないと思うので、総裁選の光景としてあまり重要ではない事項として認識しておいていただければいいかなあという風に捉えております。

 こちらからは以上です。画像はAIが考えた『リベラルもいい加減限界だけど民族右派もタコツボ化してしまって熱量が上がっている周辺は誰も近づかない孤立が進んでいる地獄絵図』です。


 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

コメント