これは私のやるべき仕事じゃないんだぞ

2025/02/17 13時25分公開

 私も処理能力と記憶力にはまあまあ自信がある人間ではありますが、さすがに過積載の状態のまま越年し、さらにほうぼうから仕事が雑に投げ込まれて「え、山本さんやってくれるんでしょ」という話になる中で「あっ、はい」と安請け合いせざるを得ない状況であります。お陰様で無事180連勤を達成しました。

 中でも、過去の経験から「あっ、これはいまここで議論して対策を練っても、途中でひっくり返って上手くいかないやつや」とか「うーん、これはこっちに投げてくる前に以前取り組んでいたこの先生方にきちんと筋通して話をしておいてもらわないと、勝手に手を付けて後から怒られるパターンだぞ」などの未来予想までできるようになってきました。一言で言えば「無理だ」という話なのですが、上から投げ込まれた話を地べたに落ちないようにまずは手持ちのザルで拾っていく作業が必要で、そこから要件を整理して、必要なところに投げ直しをし、見解を得ながら然るべき部門に引き継いでいくという役割の連続であります。

 これで勝ち戦になるなら輝かしい未来に向かって邁進するぞと脳内麻薬をたくさん湧かせて頑張れるところですが、どう考えてもいま苦労してもどうしようもない敗戦待ったなしであります。どうしてこうなった。まずこれは負けに向かっているという事実をきちんと理解したうえで、それでも破滅的な敗北に繋がらないようダメージコントロールを施し、そして順当に潔く負けた後は待ち受ける敗戦処理でできる選択肢をできるだけ増やしておこうとするのが私の仕事になってしまったようです。

 思い返せば私がまだ小僧だったころ、俺たちの麻生太郎さんがどういうわけか解散総選挙に打って出て、負け戦を悟った人々が潮の退くように周辺から去り、ほとんど御大将が孤立無援になる中で袋叩きにされて受け身も取れず惨敗し、打ち捨てられてそのまま下野しておりました。有為な人も去り、やるべきこともできなかった。

 こうなると「いまできることを、できるだけ」という、頑張ればどこかで霧が晴れることもあると信じて闇雲に動くことが求められ、しかし敗勢で踏ん張れる人は少ないので、減っていく味方の中で担務するべき仕事の幅は際限なく広がっていって、擦り切れるように疲れた人からいなくなるデスマーチが始まりかねません。これを何とかしましょうと口で言うのは簡単ですが、最低限の勝ち筋を見繕うことそのものは簡単でも、それを実現するべく親分に働きかけたり、実現させられるような予算と人員をどこかしらから調達してきて戦力化し、負け戦でもここを最終防衛線にして死守するべき場所を確保する作戦を仕切るのは大変な至難です。

 戦線の後退は許されない、全員頑張って現有勢力を死守するのだとラッパを吹くのはできても、死守するのは現場の私たちであって、まあ「やれ」と言われたからにはできる限り歯を食いしばって何とかするのが私たちの役割なんですけれども、現場の努力では限度があるものをどうにか何とかするしかないのです。

「これは本来、私のやるべき仕事じゃないはずだぞ」と愚痴を垂れながら。


 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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