ビッグモーター社による自動車保険の不正請求、この周辺に限らないのでは?

2023/08/05 18時00分公開 / 2023/08/06 18時34分更新

 規模の大小や頻度の問題はあれ、実際には自動車保険においてビッグモーター社と損保ジャパン以外にも、抜き取り検査で不適切な保険支払いや事故申し立てがあったのではないかという話は見聞きします。


【みんなブチギレ!!】ビッグモーター社はどういう処分になるのでしょうか。 国土交通省/金融庁/警察庁/耐震偽装問題の1000倍レベルのアカン具合 https://youtu.be/jjo9L6Evy5M

ビッグモーターの水増し請求、全ての自動車保険料に影響か - 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB313GJ0R30C23A7000000/


 単純な話、損保ジャパンが事故車を車庫誘導などでビッグモーター社に流し込むことで、契約者の事故車について勝手に事故を上げてしまうわけですから、損をするのは自動車保険料を値上げできる損保ジャパンではなく事故を起こさない一般ドライバーであるのは当然です。そこに、自動車保険料の値上げによる根拠が、相応の割合でシェアを持っていた損害保険会社やビッグモーター社をはじめとする中古車販売業者の板金部門だったとするならば、これは本格的に全件精査が必要な案件と言えます。

 また、同様の話は民間車検制度で委託されてきた車検に対しても言えます。こちらは、国土交通省から指定工場の認定をされていた事業者であるビッグモーター社他だけでなく、実際に車検を行う自動車整備士自身の問題に直結しますので、これは極論を言えばビッグモーター社で働いていた(過去も含む)自動車整備士はシロ判定が出ない限り、本来は全員資格剥奪の恐れとなります。

《「やってもーたー」と嗤っている場合でもない》ビッグモーターを中心とする中古車と損保の問題はどう着地させるべきか #文春オンライン https://bunshun.jp/articles/-/64656

 「着地しないのでは」というのは当初から懸念されてきたことですが、どうも本格的に国土交通省も金融庁も単なるビッグモーター社お取り潰しでは済まない事例になってきたと思いますし、過去の事例で紐解くならばどちらかというと耐震偽装事件(05年)を下敷きにしているのでは駄目なのではないかと感じます。耐震偽装事件も酷いものでしたが、ヒューザー社や姉歯建築設計事務所をぶん殴って、他はお咎めなしで広範な精査をせず、法律改正して終わりではすまず、今回は自動車保険や車両の安全運航を支える車検制度そのものに対する不信という心理的なものだけでなく、保険料という計算量全体に対する汚染が広がり着地が確定できないだろうからです。

 日曜にもかかわらず、関係先から「どげんするとね」という話が流れてくるのも、落としどころを探ろうにもあまりにも影響が大きすぎ、またモビリティ関連行政全体の信頼度の問題に直結する民間車検制度や保険制度の信頼を揺るがしたのだという話に尽きるので、大変なことになったなあというのが正直な気持ちです。

 これ、ほんと国交省や金融庁の中で対策は練るにしても、方向性については政治マターであることは間違いがないので、真摯な議論を岸田政権のなかでちゃんとやって、対処方針に基づいて私事を交えず粛々と対応するほかないんじゃないのかなあと強く思っております。

 画像はAIが考えた『ビッグモーターの工場に送られてきた事故車両』です。

 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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