パワハラで成果が出る2形態「やればできる人が揃う組織」と「駄目な人を最低限働かせる組織」

2024/09/17 18時01分公開

 以前パワハラの記事を書いたところ、この辺の人事系をやっている外資系コンサルの人たちと議論になりまして。

 元のネタが兵庫県知事・斎藤元彦さんに関する話題だったので、パワハラは絶対悪という前提で話を運んでいることに対して「いや、でもある程度成果を出す組織はパワハラ気味のトップが強引にでも引っ張らないと組織がまとまらないのも事実なんですよ」という話になり、興味深かったです。

斎藤元彦知事がいくら粘ったとしても結末は…「いいやつほど早く死ぬ」地獄を作りだす“パワハラボス”への対処法はあるか https://bunshun.jp/articles/-/73332

 特に「ややもすれば、新しいことをやらず怠惰に陥るような、しかし優秀な人が集まる組織」では、トップがパワーハラスメント気味でも新しいことをやれ、段取り考えろ、効率的にやれ、など詰め詰めに詰めないと組織改革ができないぞ、という話で。

 以前、同じように小柳肇さんの『鬼時短』を好意的に取り上げた書評に関して「山本さんらしからぬヌルさ」とか酷評をされたわけなんですよ。そうかなあ。

【書評】『鬼時短』に悪の組織・電通が先駆けて取り組んだJTCでの働き方改革の本丸を見た|山本一郎(やまもといちろう) #note #仕事について話そう https://note.com/kirik/n/nf0e4d06648fc

 外資系コンサルから言わせると、労災で自殺した女性社員が出たことへの社会的批判を上手くかわすことができず、会社の一番利益の源泉である仕事量をうっかり減らしてしまって、生産性が落ちてにっちもさっちもいかなくなってしまったJTC・電通という評価になっておるわけです。

 でもクソ忙しく働かせて、貴重な社員が擦り切れて退職されたら元も子もないでしょうという話においては、コンサル界隈からすれば「それだけの給料は払っている」のと「休みたいと思ったときにはちゃんと連続で2か月でも半年でも休める仕組みはできている」という抗弁になるのです。で、実際組織としては彼らはビックリするほど大きな利益を上げているのも間違いないので、いまやSE会社やテック系すらもコンサル部門を作って収益性を確保しようとしているわけじゃないですか。

 ただ、カネが巡るにあたっては「一番考えたものが勝つ」のもまた事実であって、お前らちゃんと考えて仕事しろよといって、仕事を詰めれば成果を出せる組織というのは、それこそ電通みたいな誰もが憧れた会社か、霞が関のように公営やりがい搾取組織が優秀な東大卒を集めて死ぬほど働かせる仕組みがあるからこそ成り立つとも言えます。

 逆に、そういうクソ働かせる会社は考える能力のある人がきちんと集まっていれば機能するし利益も出すんだけど、中途半端な会社がぼろ雑巾のように社員を働かせてもゴーイングコンサーンにならない。なので、やるべきことを全部パーツ化してジョブフローをガチガチに固め、メンコつけて何も考えず両手両足を動かせと全員が馬車馬のようにまっすぐ走るだけの組織もパワハラに向いている。それは光通信やリクルートのような営業組織は特にそうで、ごく一握りの利益を出せる商材を作り上げられる経営企画とその他大勢の軍隊アリの集まりで人材使い捨てても次雇えるやつがいる限り前に進むことができるという寸法です。

 今回の総裁選で、働き方改革のネタに繋げて金銭解雇の話も出てきました。私なんかは「アメリカのように働きたい有能なやつが雲霞のごとくやってきて、使い捨てても夢破れて帰国していけば済む国の労働法制を、なぜ日本が同じようにやらなくてはならないのか」という意見を持つ側です。実際、私とお付き合いしているコンサル会社の皆さんもアメリカ人以上にアメリカ人な感じのアジア人(日本人、韓国人、シンガポール人など)が同じメソッドで日本で会社をやり、膨大な利益を積み上げている実態があるわけですしね。

総裁選でにわかに争点になった「解雇規制の緩和」とかいう謎の与太話が騒ぎの中心になっている件について|山本一郎(やまもといちろう) #note https://note.com/kirik/n/n38cd11186484

 ただし、人口減少の局面で労働者不足が深刻化し、若い衆を雇いたくてもそういう人にアクセスすることもできない企業やお役所が増えていく中で、日本人と同じように外国人も雇わなければならない、これから新たな市場を創出しようにも日本だけでなく海外も市場としてみなければならないという話になると、やはりそう簡単ではなくなります。

 個人的には、頑張って働けと言えるモチベーションを、強制力とは別に作ってあげられるような仕組みがあるといいなとは思うんですよ。利益が出れば賃上げもできるけど、人がいなければ利益を上げることもできませんから…。

 でもまあ、なんだかんだ私もどっちかっていうとパワハラ気質の経営者なんですけどね。彼らから見れば、人の心を残している中途半端な鬼だから駄目なんだってことなのかもしれませんが。

 画像はAIが考えた『若い頃に利益の出し方を身に沁み着かせることができた人が、40代50代になっても稼げる人材になるのだけど、その前に心が折れたり結婚出産を逃したりすると人生取り返しがつかないので、やはり社会にとってはいい塩梅が必要な図』です。


 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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