「山本一郎はクソ左翼」と大手プラットフォーム業者から判定されショックを受ける

2023/11/05 00時40分公開

 大手プラットフォーム業者さんだと、各言語圏で一定の知名度がある人は検索結果などでプロフィールボックスが表示されるようになって久しいのですが、アメリカの人工知能研究をしているグループから「お前のところも協力しろ」と言われたので半年ぐらい前から日本語圏もどういう構造になっているのかご一緒したりしていました。

 中でも興味を持ったのはプロフィールを持っているその言語圏での著名人がどういうポリティカルコンパスを持っているのかという試算をしている項目があったことで、以前、大統領選挙でトランプ陣営を勝利に導いたケンブリッジ・アナリティカが介入したと見られる構造が下地になっている(やったことはともかく、できたことは素晴らしいという意味で)ため、面白そうだなと思ったわけですね。

 最終的な評価はまあともかくとして、来年のいまごろ論文になるのかなという感じですが、凄く気になったのは自分や関係先のプロフィールを調べてみると「思ってたんと違う」結果になっとるわけですよ。

 特に、私は思い切り「左翼」に分類されています。いや、私は左翼だという自己認識ないんですが… もともと私は自然法派的なバーク主義者で、保守主義者を自認しています。維持するために改革することが本懐であり、一代の知性よりも複数の世代で受け継がれてきたことに対して重きを置きながら、社会に対して同胞意識を持ち、自分や社会が培ってきた伝統を子どもたちに引き継いで、より良い社会にしていくことを志向しています。

 ところが、出た結果がどのプラットフォーム事業者での山本一郎の受け取りは「左翼」であり「急進的リベラル」の扱いで、大手事業者の情報では私は下手すると「極左の共産党主義者」の扱いでした。あんまりだ。程遠いだろ共産党と。

 しげしげと私自身の存在するクラスターを見ていると、まあ確かに判定された民族主義者との絡みは少なく、表現の自由や憲法に関心のあるジャンルの人たちが集うクラスターに「近い」ようです。言われてみれば、そうだったかな。しかし、別段憲法9条とか実際の安全保障においてはどうでもいいと思っているし、自由経済ばんざいと考えているのでクラスター的に投資や不動産にも関わっております。

 要するに、私はいろんなクラスターに出入りして、是々非々で、言いたいことを言っているだけなんですよ。

 その結果、ポリティカルコンパス的には「おっ、こいつは人権派とつるんでるから左翼なんだな」とクラスター上は分類され、左翼の箱に入れられてしまっているというのが現実であって、おいそれ誤解だ間違ってる助けてくれそうじゃないんだ分かってくれという気持ちになります。

 で、この辺の話をすると私はいつも高木浩光先生の提唱する「他律的情報からの自由」に深く賛同をするわけですよ。一口に言えば、私は実名でSNSをやったり、実名が容易に類推できるアカウントでネット上の活動をしています。私の書いたものを、見たり読んだり吟味したりするのは公開された情報ですからオプトインもオプトアウトもなく自由っちゃ自由です。

 ところが、そういう私が思ったり考えたりした結果、表に書いた文章や、SNSなどでのつながりを何らかのアルゴリズムで判定され、その結果、プラットフォーム事業者様が「おっ、こいつは左翼だな」と判定することは、私にとって少なくとも利益にはなりません。まず、何と言っても自認と異なりますから。

 これそのものが公開されているわけではないので、一般の人は「プラットフォーム事業者は山本一郎を左翼と思っているのだな」ということは知りません。ただし、万が一、山本一郎の書いたものを読んだ人に対して、「左翼の山本一郎が書いたこの記事をタップして読んどるっちゅうことは、左翼の米山隆一の記事もお薦めで配信したれ」ということは起き得ます。あるいは、東京新聞のサイトを頻繁に訪れる人に対して、確率で「たまには似た左翼の山本一郎の文章も読ませたれ」ということもあるということです。

 裏を返せば、誰が何のクラスターに属しているかという情報をプラットフォーム事業者が把握して、それに関連する情報を利用者に提示しようとすることそのものが、これもう完全なフィルターバブルを導くだけでなく、それが間違っていたり本意ではないときに訂正の方法もないぞということになるのです。やべえだろーという話を折り返しましたが、やべえよなあ、という応答しか返ってこないのもまた事実でありまして、これはちょっと山たかしだなあと思います。

 なんでこんなことを書いているかというと、中華SNSの問題は近日ハネると思うのですが、どうも、私たちが思っている以上に、私たちは簡単に騙され、行動を動画や記事によって変えさせられているようだ、ということが分かっていくことになります。ある程度、政治的な立場を自分で認識しているはずの私でさえ「えっ、私は左翼の扱いにされて左翼界隈に影響していると判定されてきていたの」と分かってびっくりする上、しかも左翼界隈に対して相応にインフルエンシャルであるという何らかのエビデンスをもって補強され続けてきたわけですよ。

 それも、身の回りやこの人はそういう立場だという人も何人か類推していたので見ましたけれども、彼らはまあ私からするとそうだろうなという立ち位置でした。でも、本人たちにそれをそう伝えたら「それは違う」「自分の自認と異なる」ってことになる可能性さえもあります。

 それもあって、政治が、それを知った結果、そのようなポリティカルコンパスも含めて自認さえもきちんと持っていないような人に対し世論誘導が可能になるであろう仕組みを使わせること自体が民主主義インフラに対する攻撃なのだ、と判断しても何もおかしくないのです。実際、アメリカでは複数の州で、中華SNSを含む大手プラットフォーム事業者やアダルトコンテンツ配信業者を訴えているわけで、同じことは今後日本でも起きる可能性はゼロとは言えないと思います。

 そうなると、問題は「もう便利になり過ぎて引き返しがつかなくなった国民が情報をプラットフォーム事業者に囲われ過ぎて、政治が問題に気づいても彼我の情報差が大きくなりすぎどうにもならなくなりつつある事情」となっていくのではないでしょうか。

 画像はAIが考えた『自分が出したペルソナに関する情報に基づいて、他人が全然違うラベリングをしてきて困惑する事態』です。

https://www.youtube.com/channel/UCYngjP_3hOC-yu2A077rKbQ


 1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、新潟大学法学部大学院博士後期課程在籍。社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所上席研究員・事務局次長、一般社団法人次世代基盤政策研究所研究主幹。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。ブロガーとしても著名。

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