「反社会的勢力」はどこまで立証し得るか
0-
0
私の得難い体験として、自民党・野田聖子さんのご主人である木村文信さん(韓国名:鄭文信さん)訴訟というのがありまして。
木村さん側の代理人が、あの弘中惇一郎さんだったというのもあって、最終的に、最高裁でも勝訴できてよかったなと思いつつも、いろいろと考えさせられる事件でした。
仕事柄、私自身は取材者であり反社会的勢力を見ている側だけれども、先方は、どうにかして自分たちを反社会的勢力と見せないようにさまざまな演出をしているケースがあります。当たり前のことですが、自分たちから「俺は暴力団だ」と言って恫喝し、現金をせしめる事件はむしろそのまま警察を呼べばいい分だけ楽で、むしろ「どう見ても反社会的勢力には見えない」人が実はそうでしたってのが一番大変なわけです。
かつてシステム金融をやって逮捕歴のある梶原吉広さんが、ソーシャルゲームで盛り上がっていた世界で成功してグラビアアイドルの山本梓と結婚してシンガポールに飛んだ。一度刑期を終えて海外に出た人はまあそれはそれで仕方がないしお幸せにと思いながらも、いろいろとヲチを続けていたらどうも誰かの名前で日本の上場企業株主に収まっている場合、これは反社会的勢力と見なすべきなのか?
国際的なFATFの世界ではアウトだけど、国内法だと慣習的にセーフとしている事案はたくさんあります。
また、兄が朝鮮総連元幹部でいま上場企業の明豊エンタープライズの代表取締役をやっている矢吹満さん(韓国名:玄満植さん)が、K-1や東京ガールズコレクションの開催責任者をやっていて、矢吹さん自身には何ら落ち度も問題もないのに周辺で矢吹さんの名前を勝手に騙ってやらかした場合、これはどう扱うのかって問題はやはり進め方が困ります。むしろ、矢吹さんは関係者の評ではむしろ資金面で厳しく監督してちゃんとした人のようであるのに、事件系では「K-1は反社会的勢力との関係を切れていないのではないか」と見る記者や当局担当者も少なくないのです。
最近になって、このような人間関係や証言をもとに関係図を作って反社会的勢力を絞り込んでいく手法よりも、もっと洗練された方法がどんどん一般化されてきて、FATF対応でのアンチマネーロンダリングをやるのだという意気込みは良く知られるようになってきました。人間関係よりも受益の構造を見て行ったほうが、確実にその人はなぜそこにいるのかを見通せるよねという話です。
ところが、実際には「ルフィ」事件がそうであったように、カネの流れをいくら追っていっても、あるいはカネの流れを追い切れずに、受益の構造自体を立証できなくて事件化を見送るとか、国内法では対処できないので諦めるなどの話が出るようになってきました。さらには、暗号資産になってしまうと日本の国内法では差し押さえをして犯罪収益として没収し被害者の救済に充てるのもむつかしいから(刑事民事進めているうちに民事のほうが手遅れになって弁済できない)、このあたりはちゃんと行政処分の形で進められるようにしようという話も出てきています。
ここまでくると、個人情報の観点からかなりなあなあになってきた当局の反社情報について、きちんと定義づけをして、誰が反社でどこがそのような組織でどう問題があったから底とのかかわりのある事業者や個人は正常な取引関係から排除しましょうみたいな線引きを作ってくれないだろうかということにもなってきます。むしろ、そうであるべきだとしつつも、法的にどうなのかという議論が詰まらない限り、また、何を持って反社とするのかは流動的である面もあることから、リスト化して対処といわれてもなあという現実の問題も踏まえて議論しなければいけないのでしょう。
今回も、ガザ地区でハマスがイスラエルを攻撃し、その結果として関係先の資産凍結を行うためにエンティティリストや関係先の洗い直しをせえというのが飛び出してきました。これはこれでやるべきでしょうし、粛々と対応するのは当然です。ただ、その前の段階で、ここのアゼルバイジャンの商社は問題なしと思って取引していたものが、ある日突然実はこいつらはアウトでしたとなり、過去に遡って、いや、実は彼らはマネーロンダリングの観点から問題のある人たちだったことが判明しましたのであなたがたも利害関係者としてモニタリングの対象にしますとか言われたら「ええー」ってなるわけですよ。
そのぐらい、国際金融やグレーゾーンでの事業をやっている人たちというのはいつクロに転じるか分からないというか、クロにされてしまうリスクのある人とか関わらないようにしようといってもよく分からない面はあると思うんですよね。今後いろいろと出てくる話は、それが良く分かった一件でした。
https://bunshun.jp/search/author/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%20%E4%B8%80%E9%83%8E